「芝居は儲からない」「興行は水物」と相場が決まっていた演劇界において、手がけた公演は、百発百中で黒字という敏腕プロデューサー、北村明子さん。演劇界の実情をはじめ、表現者の欲求と経済を両立させる道を開いた仕事の流儀、そして舞台とは何かまで、作家の林真理子さんが迫りました。
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林:今このお仕事をされてて、さぞ楽しいでしょうね。この人にこれをやらせたいと思って、組み立てていくわけでしょう?
北村:キャスティングするときはね。稽古の初日、本読みがあるじゃないですか。そのときに、期待がしぼんだりもするわけですよ。でも、最初はそうでも、初日を迎えるまでに芝居がどんどんできていって、やっぱりこのキャスティングでよかったと思ったり、稽古から本番までのあいだは、稽古場の中だけでも感情が下がったり上がったりしますよ。
林:この俳優さんでこれをやりたいと思っても、その方がスケジュールの都合とかでダメだったら、その演目はあきらめるんですか。
北村:ダメだとなったらすぐ切り替えます。じゃあ誰でやろうかって。それでもダメだったら、その演目を変えて違うものを持ってきます。切り替えが命です。
林:ほぉ~。
北村:昔は役者をやってて、稽古のとき「よーい、はい」で始めて切り替えるという習性があるから、私はすぐ切り替えられる。これ、特技じゃないかしら。
林:たとえば吉田鋼太郎さんみたいに、シェイクスピアの舞台をやっていた方がNHKの朝ドラに出てすごい人気者になりましたけど、ああいうコースもできあがっていて、それと同時に、映像育ちの人気者も舞台をやりたがりますよね。
北村:それは甘いんですけどね。もちろん映像育ちでうまい人もいますけど、映像で「うまい」って言われるのは編集の美学なんですよ。だってネコでも私たちを泣かすでしょ(笑)。ネコはただ「ニャン」と鳴いてるだけなのに、編集すれば「あー、可哀想に」って思うでしょ。極端に言えば、ものすごくヘタクソな役者でも、編集でうまく見せることができるんです。でも、舞台の上に立たされて「何かやれ」と言われたら、歩くこともできないでしょう。
林:できないと思います。