ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は大腸内視鏡検査について。
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人間ドックの便潜血検査で陽性反応が出た。後日、消化器内科のS医師の問診を受けると、たぶんポリープでしょう、といわれた。
S医師が検査をするのは週に一回なので、半月後の木曜日に決めた。その日は某テレビ局の会合に出席する予定だったが、会合より検査を優先した。
で、検査の日が来た。大腸内視鏡検査がいかに辛苦に満ちたものか、ここに報告します──。
前日の午後九時から絶食し、よめはんに叩き起こされて、朝八時に病院へ行った。ひとりエレベーターに乗り、七階の内視鏡の待合室に入ると、大腸検査の患者はわたしを含めて四人、みんなわたしと同年輩の高齢者だった。
マスクをしたナースがテーブルに二リットルの水(下剤を混ぜてある)をおいた。これを十五分ごとに二百五十ミリリットルずつ飲めという。一時間に一リットル。それで出ないときはもっと飲むのだ。
わたしは紙コップに水を注いで口をつけた。生ぬるい。出来損ないのスポーツ飲料のような味がする。鼻をつまんで飲みほした。
ビールや麦茶ならいざ知らず、不味(まず)い水というやつはたいそう飲みづらい。やっとの思いで一リットルを飲んだが、いっこうに兆しがない。ほかの三人はひっきりなしにトイレに行っている(ちなみにわたしは便秘ではない。毎日一回、快適なお通じがある)。
退屈やな──。待合室にはテレビがあるが、リモコンがない。「テレビ見てもよろしいかね」三人に断ってテレビ本体の電源スイッチを押し、見はじめたらすぐにマスクのナースが飛んできた。「テレビは見られません」「へっ、なんで……」「決まりなので」ナースは冷たくいってテレビを消した。
五杯目の二百五十ミリリットルを飲み、給湯室へ行って白湯を飲んだら、いきなり催した。すり足の小走りでトイレに行き、座ったとたんに噴出した。お釣りが尻についた気配はあったが、そんなことより、出たよろこびのほうが強かった。