その即位の礼には駐日大使夫妻など外国の要人が参列している。また大嘗祭の後には、当時宮内省の所管であった二条離宮(現二条城)に特設された大饗場で盛大な饗宴が行われている。
このときの食事は、和食だけでなくフランス王朝風の洋食も供された。フランス料理の名人秋山徳蔵シェフが腕を振るい、和と洋の融合した近代的な宮廷料理が生まれた。それが今も受け継がれている。
「この大正大礼から天皇陛下と皇后陛下が洋装で並ぶ御真影が全国の学校にも家庭にも掲げられるようになりました。その際、古来の並び方が反対になり、右側(向かって左)に天皇、左側(向かって右)に皇后が並ばれた。西洋では男性が右手に剣を持って戦うから右のright(ライト)が正義を意味し、左手に女性や子どもを抱え守るというスタイルの並び順が、日本でも普及するようになったのです」
昭和天皇の即位礼も基本的に大正の即位礼を直近の先例として行われた。
「昭和天皇の即位礼では、外国の大使や公使などが大正のときより多く参列し、それが詳しく広く報道されました。それは日本の国際的な地位が上がったことを示すものでもありました」
平成の即位礼は、はじめて東京で挙行された。このとき祝賀御列の儀、いわゆるパレードがはじめて実施された。
このように即位礼は、そのときどきで新たな試みが加えられ、国民の期待に応えている。
「皇室は昔からのしきたりを重んじて正しく受け継ぐとともに、そのときどきの新しい要素を積極的に取り入れています。日本は古来、伝統的な文化を大切にしながら、外来の新しい文化を取り入れて国のかたちをつくり上げてきた。その先頭に立ってきたのが皇室であるともいえます。今回はどんな試みが加えられるのでしょうか。即位礼を機会に古来の文化に最新の文明をうまく組み合わせる工夫もしてほしいですね」
即位礼に伴う儀式の数々が、新たな宮廷文化の幕開けを告げる。(本誌・鮎川哲也)
■装束・文様が示す歴史と伝統
「即位礼正殿の儀」で天皇陛下は、古式装束「黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)」を身に着ける。
ウルシ科のハゼノキの皮とマメ科のスオウ、灰汁(あく)などで染めた淡い茶色の装束だ。即位式のほか、祭祀(さいし)でも用いられている。
宮内庁関係者によれば、天皇の黄櫨染御袍は、「天に太陽が上った色」、東宮(皇太子)が身に着ける、淡い黄みがかった緋の「黄丹袍(おうにのほう)」は、「上りゆく朝日」と表現した書物もあるという。