即位礼で皇后は、略儀の小袿より格式の高い唐衣(からぎぬ)を身に着ける。唐衣の文様は、そのときの皇后の意向もくんでデザインを決めていたようで、厳密な決まりはない。昭和の即位礼は、鳳凰の文様があしらわれていたが、平成では、皇后美智子さまの装束は、鶴の文様であった。雅子さまがどのような意匠を取り入れたのかにも、注目したい。
他の女性皇族の唐衣は、登極令に倣い、濃い紫色が用いられ、儀式を終えると、装束は、それぞれご本人方のもとで保管される。
ひとそろえで、1千万円近い値段だけに、皇后や主な皇族妃以外は前回の装束を着用する。年齢によって緋の袴(はかま)、未婚の方は紫など、装いの違いも興味深い。
そして左右が大きく膨らんだ女性の独特の髪形は、「大垂髪(おすべらかし)」と呼ばれ、江戸時代末期からの伝統である。さらに、手には大きな「檜扇(ひおうぎ)」を持つ。こうした女性の「十二単衣」の装束は、十数キロの重さになるというから、歩くだけでも大変だ。
儀式にあたっては、天皇陛下や皇后さま、皇族方は、高御座と御帳台が置かれた正殿松の間まで、短くない距離を歩くことになる。
装束の足元は、天皇は御挿鞋(ごそうかい)といって漆の塗られた浅い木沓を履く。他の男性は靴(かのくつ)という革靴だ。なかは、「襪(しとうず)」という靴下のような布をはく。
もともと外を出歩くことのなかった女性の場合、襪のみだという。
こうした古式装束を天皇陛下や皇后さま、皇族方をはじめ、参役者として政府や宮内庁の高官、庭に並ぶ楽部など宮内庁の職員も着用して参加する。
大半の人が、生まれて初めて着用するため、最初は歩くことすらままならない。そのため、宮内庁では何日もかけて試着や「習礼(しゅらい)」といって、幾度かのリハーサルを行うのだという。即位式当日は、歴史と伝統を受け継ぐ人たちの、「努力」を想像してみるのも、儀式に深みを感じさせてくれそうだ。(本誌・永井貴子)
※週刊朝日 2019年11月1日号