通常、救急隊は患者の救命を第一に考えるため、心肺蘇生をしないという選択肢はない。そのため、救命措置を行い、心肺機能が戻れば病院の救命救急センターに救急搬送され、戻らなければ警察を呼んで検視の対象になる。
最近では、到着した救急隊に患者家族が「心肺蘇生をしないでほしい」「蘇生を中止してほしい」と言い、現場が混乱するケースも出ている。その場合、主治医が来て事情を説明すれば引き取ってくれることもあるが、どこでも同じ対応をしてもらえるとは限らない。
そのときに慌てないために患者自身も家族も備えが大切なのだ。例えば、亡くなるまでの過程を知っておくこともそのひとつ。「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を見ると、一般的に人生の最終段階といえる終末期には、いくつかの状況があることがわかる。
一つ目は、がんの末期のように進行が速く、「数日から2、3カ月」と死が予測される状況、二つ目は心臓病やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)など慢性疾患が悪化したり、よくなったりを繰り返しながら徐々に悪くなっていく状況、三つ目は脳血管疾患の後遺症や老衰など、数カ月から数年かけてゆっくり最期を迎える状況だ。東京大学医学部で高齢者医療、緩和ケアに携わってきた、ふくろうクリニック等々力(東京都世田谷区)院長の山口潔医師はこう話す。
「がんは急にガクンと悪くなるのが一般的。逆にいえば、ギリギリまで自立した生活を送ることができます。一方、認知症というとたいへんな病気という印象をお持ちの方も多いでしょうが、終末期はとても穏やかで、眠った状態が続きます。老衰に近い状況といってもいいでしょう」
認知症などの慢性疾患では病気そのものではなく、誤嚥性肺炎やもともとの持病が悪化したことで亡くなることもある。
意外と知らない人が多いが、患者がいよいよ亡くなるというそのときを、在宅医がつきっきりで見守ることはあまりない。