家族から連絡があった在宅医は往診に来て、患者の状態を確認した後、いったんその場から離れる。そして、しばらくしてからもう一度、訪問するというのが一般的だと、千葉県松戸市で開業医を中心とした連携医療によるまちづくりを進める、いらはら診療所院長の苛原実医師は言う。
「往診の連絡が入って訪問し、患者さんが下あごを上下させる下顎呼吸をしていたら、『これは亡くなる自然な過程で、苦しんでいるのではなく反射的なものです』と説明し、『呼吸が止まっているようなら連絡ください』と言って、その場を離れます」
亡くなるまでの過程のなかで病状が急変した場合、対応に戸惑う家族は少なくない。横浜市を中心に在宅医療を行っている、めぐみ在宅クリニック(瀬谷区)院長の小澤竹俊医師は「家族にとって思いがけないことですが、急変のことは初診のときに必ず伝えます」と話す。
「症状緩和ができていて、患者さんが穏やかに過ごされていても、突然、分単位で命に関わる出来事が起こることがあります。そのときは慌てないで24時間通じるクリニックの電話に連絡してください。その際、電話で医師が対応の仕方を教えてくれますから、それを続けながら医師の到着を待っていてください」
少なくとも家族は今後起こってくる患者のさまざまな体の変化を、急変も含めて、あらかじめ主治医や看護師などから聞いておくことが大切だろう。
「実際、それが不安の解消にもつながります。たまに顔を出す病院や施設はこうはいきません。『この前まで元気だったのになぜ?』と、変化に家族が追いつかないことが多いからです。ご自宅で一緒に過ごしていれば、日々の変化を見ることができます。“今晩危ないかも”ということがわかります」(小澤医師)
一方、最期の迎え方について、苛原医師はこんな考え方をする。
「在宅で亡くなることだけが理想の看取りではありません。大事なのは場所ではなく、亡くなるまでをどう生きるか。家族が介護をがんばってがんばって疲弊して、本人もつらくて仕方ないのであれば、ギリギリまで自宅にいて最後は病院で、という選択肢でもいいと思います」