82年ごろと比べると、円は大部分の他国通貨に比べて強くなっている。なのに、日本への外国人観光客が急増している。この動きには、根本的な国の勢いの差を感じざるを得ない。

 80年当時の1人民元は160円出さないと買えなかったが、今は15円。この人民元安のおかげで中国は世界の工場になり、経済規模(名目国内総生産)が220倍となった。通貨が約10分の1になったところで、経済は円ベースで見ても約22倍拡大したので、生活は豊かになる。だから海外旅行に行く余裕があるのだ。

 かつて大勢の日本人が、物価が安い東南アジアなどに出かけた。その日本が、「安いから出かける地」になりつつある。以前、このコラムに豪州の政府高官の次のような話を書いた。

「為替がほとんど変わらないのに訪日する豪州人と訪豪する日本人の数が逆転したのは、豪州人が豊かになったせいで、日本旅行が安く感じられるようになったからでしょう」

 今回のスイス旅行では、まさに外国人観光客数は母国の経済力の強弱に依存することを実感した。海外旅行で感じる日本のプレゼンスの低下。30~40年続く、世界でダントツのビリ成長の原因を追究し、低成長トレンドを変えないと、海外旅行に行くだけの経済力さえも失ってしまうだろう。

週刊朝日  2019年10月18日号

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