“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、海外旅行で日本の弱体化を目の当たりにした。
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8月末から9月はじめにかけて家内と十数年ぶりにスイスにハイキングに出かけた。整備されたコースはなんとも魅力的だ。
初めてスイスに行ったのは邦銀のロンドン支店勤務時代で1982年。そのとき行ったミューレンは崖の上に張りついた村で、車の乗り入れ禁止。最終の登山電車が出てから翌朝の始発が到着するまでの静寂さが忘れられない。
すばらしいスイスだが、実は今回初めて行ったマッターホルン山麓(さんろく)で遭難しかかった。いくら整備されたコースとはいえ、山を甘く見すぎたと大反省。遭難したら、「参議院選落選で悲観し夫婦心中」なんて書かれてしまうかも。かっこ悪いったらありゃしないと必死の思いで生還した(苦笑)。
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ミューレンにはもう10回近く行っており、37年間定点観測をしてきたことになる。変わらないのは、もちろん雄大な自然。大きく変わったのは日本の存在感の急低下ぶりだ。40年近く前はたまに会う団体と言えば日本人グループのみだった。
それが今回は、ミューレンで出会った日本人は数組のカップルのみ。圧倒的に多いのは中国人や韓国人の団体旅行客だ。駅員や欧米ハイカーから、しばしば中国語や韓国語であいさつされた。昨年夏、メルボルンへ出かけたときと同じだ。
邦銀のロンドン支店勤務時代の80年代前半、英フィナンシャル・タイムズ紙の1面トップに「デパートのハロッズが米国人に占領された」との記事が出た。1ポンドが1ドルを割るかも、というほどにポンドが弱くなったときのことだ。通貨安による観光客の増加だったのだ。
しかしスイス、オーストラリアへの中国人・韓国人の旅行客急増と日本人の急減は、単なる為替の問題とはいい難い。私が初めてスイスに行った82年ごろの1スイスフランは約123円、現在は約109円。いまのほうが円は強い。為替だけで考えるのなら、安くなったスイス旅行を楽しむ日本人が増えていたはずだ。