また、首回しは冒頭でも紹介したとおり。肩こりの原因になる筋肉には効かない。軽く回すぐらいにしておきたい。

 肩こり難民のなかには、「朝起きたら、肩がこっていた」といった経験のある人もいるだろう。「朝の肩こり原因は“睡眠姿勢”にあります」と指摘するのは、16号整形外科(相模原市)院長の山田朱織さんだ。

「正しい睡眠姿勢とは、寝返りがスムーズに打てる寝方です。日中、起きているときに生じた姿勢のゆがみは寝返りによってリセットされるのです」(山田さん)

 日中、体を起こして生活をしているため、姿勢が正しくても重力の影響で体にゆがみが生じてしまう。もちろん、背や足を組む、肘をつくといった姿勢をとれば、より体にゆがみが出やすい。

 この日中に生じたゆがみをとって、骨や関節を整える役割があるのが寝返り。体を左右にコロコロとスムーズに動かすことができないと、ゆがみがリセットされず、疲れやこりが翌日に持ち越される。朝起きて体がスッキリしない理由の一つが、ここにあるという。

 しかし、意識のない睡眠中に、どうやって正しい睡眠姿勢を作ればいいのか。山田さんは「大事なのは枕。高さが適切だと寝返りを打ちやすいのです」と話す。

 自分に合った枕の高さをどうやって調整すればいいのか、山田さんに聞いた。

■枕の高さの合わせ方

(1)玄関マットとタオルケットを用意する。それらを重ね、簡易版の枕を作る。

(2)ベッドや布団の上で横向きに寝て、枕の上に頭をのせる。手は体の前で軽くクロスさせておく。

(3)横から見たときに、額と鼻先、あご、胸の中心を結ぶラインが布団の面と水平になっていれば、高さが合っているというしるし。ずれていたら水平になるようにタオルケットを折りたたみ枚数を増やしたり減らしたりして調整を。

(4)あおむけになり、膝を立てて寝返りを打ってみる。スムーズにできたらOK。

「玄関マットとタオルケットで作った枕は硬さがちょうどよく、かつ面がフラットなので頭が沈み込んだりしません。正しい睡眠姿勢をサポートできます」(同)

 適切な高さの枕を使うことのメリットは、体のゆがみのリセットだけにとどまらない。首への負荷が軽くなるため筋肉の緊張がとけ、全身も脱力できる。自律神経のバランスも整うという。

 自律神経には交感神経と副交感神経があり、お互いにバランスを取り合っている。だが、そのバランスが崩れて交感神経が優位になると、緊張状態が続き肩こりが起こりやすい。

「その緊張状態をとってくれるのが、正しい睡眠姿勢です。これにより副交感神経が優位になるため、肩こりも解消されます」(同)

 実際、山田さんは肩こり患者84人に対して先に紹介した枕の高さ調整を行い、その後の症状の変化を調べた。すると2週間で8割の人にこりの改善が見られた。それだけでなく、めまいや頭痛、不眠、動悸といった自律神経症状も改善されるケースが多かったという。

 正しい睡眠姿勢による肩こり改善は、“昼寝”でも期待できる。肩がこったと思ったら、その枕に頭をのせ、膝を立てて5~10分横になる。たったこれだけのことで肩こりがラクになるという。反対に、疲れたときにソファに深く腰かけたり、机に突っ伏したりして休むのはオススメできない。首の緊張を高めるだけで肩こりの解消にはつながらないようだ。(本誌・山内リカ)

週刊朝日  2019年10月11日号