22日の横浜国際総合競技場。ハーフタイムを利用して売店に並ぶ観客ら
22日の横浜国際総合競技場。ハーフタイムを利用して売店に並ぶ観客ら
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 激闘に湧くラグビーワールドカップだが、スタジアムに駆け付けた観客たちの間では、もうひとつの“闘い”が繰り広げられていた。

 会場では観客の飲食物の持ち込みが禁止され、持参した飲食物については、入り口で係員が回収。そのため、会場内で飲み食いする際には場内で売られているものを買う必要があった。

 しかし、これが騒動のもととなったのである。日本対ロシア戦が行われた9月21日の東京スタジアム。観戦していた観客から、悲痛の叫びともとれるつぶやきが、SNS上に数多く並んだ。

<長蛇の購入列>

<売店数も少なくフードが早々に売り切れ、長時間並んでも買えない人多数>

<販売される飲料は、スポンサーをつとめるハイネケンのビールが大きな割合を占め、ソフトドリンクなどが買いづらい>

<45分並んでお菓子だけ>

<会場内の売り子はハイネケンのものばかり>

 この混乱に、ラグビーワールドカップの埼玉アンバサダーをつとめる歌手さいたまんぞうさんは、

「持ち込み禁止、断固反対!」

 と、厳しい視線をむける。

「飲料の持ち込み禁止の理由はテロ対策とのことですが、スポンサーの商品を売らんがための作戦のような印象も強く、楽しい気持ちが陰鬱(いんうつ)になりますよね」

 外国人がビールを大量に消費することを踏まえた上で、こう提案した。

「ラグビーワールドカップのビールの消費量は、サッカーの6倍と言われますが、多くの人は、水やお茶で十分なはず。売ることばかり考えず、たとえば売店で売っている水を無料提供するなどすれば、企業のイメージアップ間違いなしだと思うのですが」

 マーケティングコンサルタントの西川りゅうじん氏は、今回の騒動をこう表現する。

「ラグビーは日本語で『闘球』と言いますが、観客はさながら食べ物や飲み物を競って闘う『闘食』『闘水』状態でした」

 日本でラグビーのワールドカップが本格的に注目されるようになったのは、優勝候補だった南アフリカに勝利した4年前のイングランド大会からだといい、

「日本はもちろんアジア初開催でシミュレーションしようにも前例がない。運営側も観客もマスコミも初体験でよく分からないまま大会に突入してしまった感は否めない」

 と指摘している。

「来日する海外のラグビーファンは、とにかくビールをたくさん飲む、サッカーの6倍だという話題が注目を浴び、『ビールだけは切らすな!』が、観客対応の最重要ポイントだと思われた部分もあったように感じます。運営側が、スポンサー企業のビール会社に気兼ねして食べ物・飲み物の持ち込みを禁じた可能性もありますね」(西川氏)

 一方で、日本人の観客側も、他のスポーツとラグビーの観戦の仕方が異なることを認識していなかったと西川氏は考える。

「ラグビーもテニスも、国際大会の様子を見れば分かるように、日本の国技の相撲と同じように、食事は試合の前や後にするもので、試合中はひたすら応援するというのが一般的な観戦スタイル。日本では野球やサッカーは飲食しながら観戦する習慣のある上に、食べ物持ち込み可のJリーグの試合が行われるスタジオアムでラグビーワールドカップを行なったことも、混乱を招いたのではないでしょうか」

 SNSやネットなどでの批判や観客からの苦情を受け、組織委員会は23日から一部規則を変更し、「個人で消費できる程度の量」での食品の持ち込みを許可した。

 飲料は、ビンや缶などのグラウンドへの投げ込み防止などの理由で持ち込みは不可だが、水筒はOK。全会場に無料の給水所は設置されている。

 グラウンド外の闘いは、熱戦にならないことを願いたい。

(本誌・太田サトル)

※週刊朝日オンライン限定記事