“兄弟”のようだったザ・バンドを追想しながら、その末期以降のメンバー同士の関係を“もう兄弟じゃない”と、たもとを分かったことを振り返って歌っている。

「争いや確執を曲にするのは、心が痛むことではある。でもやりがいがある経験だともいえるよ、そのエモーショナルな結果にね」とロビーは明かす。ファンにとって悲痛な思いを抱かせる。

「デッド・エンド・キッド」は“ろくな人間になるまい 人生行き止まり”と言われ続けながら“世界に見せつけてやりたい”と音楽に賭けたティーンエージャー時代の回想記。自伝的な曲であり、炸裂するギターが聴きものだ。

 ラジオにしがみついていた昔を物語るのが、オーソン・ウェルズのラジオ・ドラマをテーマにした「ザ・シャドウ」。サウンド展開がユニークだ。

 20世紀初頭の上海の伝説的なギャングの武勇伝を素材にした「シャンハイ・ブルース」、都会の闇をテーマにした「ストリート・セレナーデ」はフィルム・ノワール的な趣だ。

 年老いた男の恋愛の追憶を描いた「ウォーク・イン・ビューティ・ウェイ」ではリタ・クーリッジのめいローラ・サターフィールドとデュエットし、幻想的なサウンドを展開。

“俺の時代 何人もの英雄が 銃弾に倒れるのを見た”と歌い、ジョン・レノンの言葉も引用した「レット・ラヴ・レイン」、戦争に取りつかれた罪深き人々をテーマにした「ハードワイアード」、異常気象は自然現象なのか、人間の仕業なのかと問いかけた「プレイング・フォー・レイン」など、現代社会が抱える問題に触れた曲もある。

 多くのゲストを迎えた演奏もさることながら、押し殺すようにうなるロビーの歌声は、迫力がある。

 ザ・バンド時代、歌が不得手な彼はリード・ヴォーカルを取ることは滅多になく、ライヴでは彼の前にマイク・スタンドこそ立っていたもののオフにしていたというエピソードもある。かつてソロ・アルバムの発表時に評者が取材した際、歌唱力不足に言及したところ、しかめっ面をされたこともあった。

 その後。ナレーション的なスタイルを追求してきた彼は、ついに今作で個性的な歌唱法を完成させた。(音楽評論家・小倉エージ)

※本連載は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。

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