イン・コンサート!/東京銘曲堂
イン・コンサート!/東京銘曲堂写真・図版(1枚目)| 『イン・コンサート!/東京銘曲堂』
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昭和風なニュアンスの名をもつトリオのライヴ・アルバム
JIn Concert! / TMD

 1999年に結成されたトリオのライヴ・アルバムである。始まりは岡安芳明のライヴで共演したことで、その後、川嶋哲郎が毎日共演者を換えた同年の4日連続のクラブ・ライヴで再会。お互いに手応えを感じて、2001年にスタジオ録音作でアルバム・デビューしたという経緯だ。これまでにスタジオ作3枚とライヴ1枚をリリースしており、この新作は通算5枚目となる。名は体を表すように、本トリオは東京を拠点に活動する3人のミュージシャンが、スタンダード・ナンバーをレパートリーとして運営。

「名曲トリオ」ではなく「銘曲堂」と名付けたのは、昭和風なニュアンスを打ち出すのが狙いだったという。テナー・サックス+ギター+ベース=トリオの前例には、ジム・ホールを含むジミー・ジュフリー・トリオがいるが、メンバーに直接尋ねたところ、ズート・シムズとレッド・ミッチェルの名前を挙げてくれた。その直後に彼らのステージを初めて観て、ズートの名に合点がいった次第だ。

 本作が収録された「東京オペラシティ」はTMDにとって初出演となった会場。クラシック向きの250席は、ドラムレス・トリオのTMDの音楽性に合う、との判断があったのだろう。静かな立ち上がりの#1はテナー・ソロに進むと、川嶋が一気に燃え上がり、TMDで最もアグレッシヴな役どころを演じる。近年のソロ・ワークが高い評価を受けている川嶋の好調ぶりが、ここでも反映された形だ。

 バラード#2での表情豊かな吹奏を聴くと、制約の少ない編成と関係が作用して、自由に心地よく音楽を生み出している川嶋の姿が強く印象付けられる。

 本作中、最も挑戦的な選曲であるジョン・コルトレーンの#5は、予想に違わぬ川嶋の熱演ばかりでなく、オクターブ奏法でグイグイと攻める岡安、そして強力なピチカート・ソロで存在感を示す上村信と、全員の一丸となったプレイが秀逸。

 近年川嶋が力を入れているという#6のフルートも、説得力に溢れる。数え切れないほどのジャズ・ミュージシャンが取り上げてきたスタンダード・カヴァーをユニット・コンセプトに据え、3人それぞれの“名曲経験”をフィードバックしながら、「シンプルでいいものを作る」をモットーとするTMD。日本では他に得難いトリオである。

【収録曲一覧】
1. Perdido
2. On A Slow Boat To China
3. Shiny Stockings
4. Autumn Leaves
5. Cousin Mary
6. Spring Is Here
7. What Am I Here For
8. You And The Night And The Music
9. The Shadow Of Your Smile

東京銘曲堂 (allmusic.comへリンクします)
川嶋哲郎:Tetsuro Kawashima(ts,fl)
岡安芳明:Yoshiaki Okayasu(g)
上村信:Sin Kamimura(b)

2009年10月東京録音

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