
著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は、作家・山本一力さんの「シシリア」の「アンチョビのピッザ パイ」だ。
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こちらのマスターは若い頃、六本木の老舗「シシリア」で働いた方。80歳を過ぎたいまも現役で、味を継いでいます。西葛西でこの店を見つけた時は嬉しかったですね。私の“ピザ事始め”は18の頃、六本木の店で始まったから。
当時は旅行会社で働いていて、高校の同級生が麻布十番の4畳半ひと間の私のアパートに転がり込んできた。そいつが根っからの江戸っ子で。連れてってくれたのが六本木の「シシリア」だった。私はピザなんて食べたことがなくて、彼が「ピザは絶対にアンチョビに限る」って言い切るもんだから頼んでみたら、いやあ驚いた。生地が薄くてパリッパリで。あふれ出しそうなトマトソースにアンチョビの塩気が重なって。思わずお代わりしたのを覚えています。
あの頃の懐かしい味がそのまんま、ここに行けば味わえる。丹念に仕込んだ生地で、あつあつのピザを出してくれます。マスターの人生の深みを感じるからこそ、なおさらうまい。これからも通い続けますよ。
(取材・文/沖村かなみ)
「シシリア」東京都江戸川区西葛西6-12-7 ミルメゾン2F-B/営業時間:11:30~14:30L.O.、17:30~21:00L.O./定休日:火・水
※週刊朝日 2019年8月16日‐23日合併号