そこで出会ったのが、料理人・志度藤雄さんです。志度さんの『一料理人として』という本を擦り切れるまで読みました。そんな伝説の人と一緒に仕事をさせていただく機会に恵まれたんです。

 志度さんはフランス料理を学ぶために海外に密航して、強制送還されてもまた行く、ということを繰り返した気骨のある人です。彼に出会って「これがフランス料理なんだ!」と体験しました。当時は手に入らなかったオマール海老の代わりに伊勢海老を丸ごと使ってソースを作るなど、食材をぜいたくに使う料理法に驚き、感銘を受けました。

 もちろん怒られたこともあります。一斗缶を開けるときに缶切りを使わず、横着して包丁を研ぐスチールの棒でグイッと穴を開けたんです。志度さんに見つかって、思い切りその棒でたたかれました。「缶切りを使え! 道具を大切にしろ!」と、ものすごい剣幕でした。ダメなことをダメだと体で教えてくれる人は、それまでいなかったんです。

――もう一人、人生の師でもあり、「おやじ」でもある人がいる。ジョン金谷こと金谷鮮治さん。金谷ホテルの創業者の孫にあたる粋人だ。

 金谷さんの話をすると、いまも涙腺が緩むんですよ。まず教わったのは「物を大事に」ということ。金谷さんは「30万円あったら、10万円のスーツを3着作るより、30万円のスーツを作ってそれを大事に大事に着なさい」と言う人でした。

 出会いは僕が28歳くらいのときです。金谷さんは西麻布にオープンする店のシェフを探していたんです。いろんな人が応募してきたけれど、「若い世代でいろんなものに挑戦できる人がほしい」と金谷さんが言って、なかなか決まらない。それで僕が紹介されたんです。

 71年に開きましたが、客単価2万~3万円のフレンチレストラン。当時すごい金額でしたからお客さんは入らず、調理場でしょげていました。料理人にとって、客が入らないほどつらいことはないんです。でも金谷さんが言ったのは「とにかく我慢しろ」。そう言われて3年くらい我慢しました。その間、金谷さんに懐石料理の「吉兆」や「辻留」に連れていってもらい勉強しました。

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