「いくつかのシーンの収録はしたけれど、収録予定分の全部は撮り終わっていない、と聞いていました。萩原さんは『高橋是清といっても、ほとんどの日本人は顔が思い浮かばないから、実物の顔写真に似せようとはせず、演技したい』と語っていました」(田中さん)

 田中さんは、インタビュー中の前向きな姿が印象に残るという。

病気でいままでのようには動けなくなったけれど、だからこそできる表現がある、声がかれたら、その声をどう使えばいいか、というように次にできることを探しておられました」

■市原悦子 亡き夫に寄り添う樹木葬 なお、なお、なお、なお愛される

 女優市原悦子さん(享年82)の闘病は2016年11月、自己免疫性脊髄炎で都内の病院に入院してから始まった。

「病室でおばは動けなくなって、すごく落ち込んでました。薬も合わなくて、メチャクチャしんどそうでした。そのときがどん底でしたね。きょうにも死んじゃうというような雰囲気で、『きょうだい呼んで』って」

 16年11月から17年8月まで、総合病院とリハビリ病院を計7回も入退院を繰り返した。市原さんのリハビリを支えたのはめいの久保久美さん(54)と市原さんのきょうだいたち、親しくしていたノンフィクションライターの沢部ひとみさんらだった。

「きょうのおまじないは?」

 市原さんは入院中、病室から立ち去ろうとする久保さんにせがんだものだった。

「病室から帰るときは『じゃあね』というつもりで、おばの頬に『ちゅっ』としたり、『ハグ』をしたりしてたんですよ。忘れて何もしないで帰ろうとすると、おばは『おまじないは?』と言ってくるようになりました。おばらしい表現だなと思いました」

 17年8月21日から自宅療養に切り替わった。

「歩行器を使うのが上手になって、50歩くらい歩けるようになりました。でも、家の中だけで、外には出ようとしませんでしたね。転んで骨折したら寝たきりになってしまうとか、風邪をひいたらどうしようとか、用心しすぎなくらい用心していました」(久保さん)

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