『ウイチタ・フォールズ』(ECM)
『ウイチタ・フォールズ』(ECM)

 1970年代にパット・メセニーがECMから『ブライト・サイズ・ライフ』を出した時は、本当に新しいタイプのミュージシャンが現れたと思ったものだった。従来のジャズギターのイメージを覆す明るく透明なサウンドに乗って繰り出されるフレーズは、ウェス・モンゴメリーやケニー・バレルといった60年代の大物たちとはまったく違う。

 その後メセニーはブラジル音楽への接近やオーネット・コールマンとの共演など多彩な音楽歴を重ね、今では押しも押されもせぬ第一級のギタリストとして音楽シーンに君臨している。つい最近も自動楽器と共演して見せるなど、意表をつくアイデアによってファンの注目を集めたばかりだ。あくなき実験精神とポピュラリティの自然な同居がメセニーの魅力の源泉だろう。

 それだけに優れたアルバムは数多く、またそれらが各々異なった相貌を見せているだけに、何をもって彼の代表作とするかは大いに意見の分かれるところだろう。地味ながらギタリストとしての実力を見せ付けた『リジョイシング』(ECM)や、ブラジルものの心地よさも捨てがたいが、ここではライル・メイズとの共演盤である『ウイチタ・フォールズ』(ECM)を挙げておこう。

 このアルバムの聴き所は、ライル・メイズのシンセサイザーが生み出す想像力を刺激するサウンド・エフェクトに多くを負っているが、やはりそれが音楽的な凝縮力を持っているのはリーダー、メセニーの力だろう。それにしても、ECMのジャケットにしては珍しく「物語的」な写真の採用はいったい誰のアイデアなのだろう。

 ともあれ、音楽が喚起する想像力の多様性、豊かさという点でこのアルバムは傑出していると思う。高性能のオーディオ装置で大音量で聴いたときのカタルシスは、筆舌に尽くせない。

【収録曲一覧】
1. As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls
2. Ozark
3. September Fifteenth (Dedicated To Bill Evans)
4. 'It's For You'
5. Estupenda Graca

Pat Metheny (allmusic.comへリンクします)

Lyle Mays: piano, synthesizer, organ, autoharp
Pat Metheny: electric and acoustic 6- and 12-string guitars, bass
Nana Vasconcelos: berimbau, percussion, drums, vocals