古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など
古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など
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中西宏明・経団連会長 (c)朝日新聞社
中西宏明・経団連会長 (c)朝日新聞社

 令和元年は、「働き方改革元年」でもある。改正労働基準法が4月に施行。大企業では、残業時間の上限規制が始まり、有給休暇も最低5日の取得が義務付けられた。日本の労働条件は、この規制がまともに実施されれば確実に向上するはずだ。

【写真】終身雇用の限界について述べた経団連の中西宏明会長

 また、人生100年時代のスローガンの下に、元気な限り働く機会が与えられ、その間年金保険料を納めれば、かなり多額の年金をもらえるようになるという「ありがたい」話についても、自民党の会議や政府の審議会で議論されている。

 さらに、最低賃金も早期に全国平均で時給1千円を目指すという方針が6月に決まる予定だ。と聞くと、令和は、労働者にとって明るい時代になりそうな気がしてくる。しかし、そんなにうまい話があるのだろうか。

 目の前の景気悪化や米中通商摩擦の影響なども心配だが、実は、もっと深刻な問題がある。

 政府が宣伝するように、労働条件を引き上げ、年金も充実させるには、当然、それに見合った企業利益の増大が必要だ。その実現の切り札として、「生産性革命」という言葉が使われるが、特に、日本の経営者は、「日本の『労働者』は生産性が低いので、これを引き上げることが必要だ」という点を強調する。

 ここで、注目すべきなのは、日本経済界の重鎮が、相次いで、終身雇用終結を宣言し始めたことだ。5月7日、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)が、「終身雇用を前提にすることが限界になっている」と述べると、13日には、豊田章男トヨタ自動車社長が「なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言。さらに、翌14日には、経済同友会の櫻田謙悟代表幹事(SOMPOホールディングス社長)も「終身雇用を捉えれば、やはり制度疲労を起こしており、(このままでは今後)もたない」と述べたのだ。

「ザ・日本株式会社」の代表者たちによる「終身雇用放棄」発言が続いたのはなぜか。労働者の生産性向上には、一人ひとりの生産性を上げることのほかに、生産性の低い労働者を切り捨てて平均の生産性を上げるという手段があるが、終身雇用制は最も大きな障害になる。早期退職などで事実上終身雇用は崩れつつあるが、ついに、日本を代表する経営者たちがそれを公に宣言したのだ。

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