
東出昌大さんが役者としてのスタートを切ったのは23歳のときだ。朝井リョウさんの小説を映画化した「桐島、部活やめるってよ」で、キャリアは上だが、年齢的には年下の俳優たちに囲まれながら、高校生の役を演じた。
「最初は、お芝居の右も左もわからなくて、“はい”という台詞を言うのにも、タイミングや感情の込め方をどうするか迷ってばかりでした」
朝ドラや大河など、順調にキャリアを積んできた彼だが、ここ1~2年は、とくに新境地に挑戦している印象。昨春は、ドラマ「コンフィデンスマンJP」の“ボクちゃん”役でコメディーの才能を開花させ、秋には舞台「豊饒の海」で“美の象徴”とされる主役の松枝清顕を演じた。
「三島由紀夫の小説は思春期から愛読していたので、お話をいただいたときは震えましたし、役者人生最大の試練になると思いました。本番前は本当に緊張して、『劇場、停電にならないかな』とか、子供みたいなことを考えてばかりでした(苦笑)」
ところが、舞台の初日を終えた瞬間、特別な感情がこみ上げてきた。
「すごく不思議なんですが、カーテンコールを受けながら、『あ、今、俺はようやく役者になれた』と。そんな気がしたんです」
でも、感慨は数時間しか続かなかった。普段、作品に入っているときは、徹底して役のことを考える。作品に入っていないときは、「今自分は何者でもないな」と思う。演じることは仕事だが、それを「快感だ」と思ったことも、ましてや「役者は天職だ」と思ったこともない。
「役者をやっていて嬉しいのは、前にご一緒した監督に、別の作品で声を掛けていただくことです。今回の連続ドラマW『悪党~加害者追跡調査~』の瀬々敬久監督とは、映画『菊とギロチン』でご一緒しました。役者は“料理される側”だと思うのですが、イマジネーション豊かな名料理人に、『前回はこうだったから次はこう料理したい』と思っていただけることは、役者冥利に尽きます」