東京大学の入学式での上野千鶴子さんの祝辞が話題になっている。簡単にまとめると「この世は性差別まみれ。あなたたちも早晩そのことを知るだろう。そもそもあなたたちが東大に入れたのは、努力だけではない、環境要因は大きい。これからは自分の頑張りを他人のために使える人になれ」。グリム童話で、プリンセス誕生の時にやって来て呪いをかける魔女のように、魅惑的で、強いメッセージだ。

 今年卒業した東大生に聞いたら、「あの大学でフェミニズムという言葉を聞けるだけで、泣ける」と喜んでいた。「奴ら(東大生が世界で一番エライと思ってる奴ら)に聞かせるのに、最高の祝辞です!」と。彼女によれば、大学入学してすぐ、同級生男子に「○○さんて女なのに、なぜ髪が短いの?」と聞かれたそうだ。教授には「そこの女性の方」と授業で指されることもあったという。そんな大学でフェミニストの祝辞は事件レベルだという。

 そうだよね……と強く頷きながらも、フェミニストとしては、道のりは長く遠いよ……と情けなくもなる。あの祝辞は私が塾生になった89年に語られてもいい内容で、平成30年間の日本社会の停滞の証拠のようなものだ。上野さんは、女性学と自身を有名にはしたが、上野さんしか生き残れていない感は否めない。女性学では食えないと嘆く研究者は少なくなく、フェミニズムはみんなのものにはなっていない。

 人を育てることの難しさを思う。私たちの能力をひきだし、安心して学べる場をつくり、自尊心を損なわずに生きる力を与えようとした女子教育の先駆者は梅子だけではない。フェミニズムの先駆者たちに、今、改めて敬意を示したい。そして教育の場は生存競争ではなく、希望を感じられる場であってほしいと強く願う。なので! 津田梅子の顔は、絶対に反転させず、むしろ1万円札にして活かす方向でお願いします。

週刊朝日  2019年5月3日号‐10日合併号

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