「住所不定無職低収入」はシャッフル・スタイルで、ラウンジ風のテイストも。オリジナルは、若者の明日への不安を歌っていたが、新作では、ニッポンの現実を反映し、定職にありつけずにいる人々全体に光を当てた歌になっている。
カリプソ風だった「福は内 鬼は外」は、打ち込みによる軽快なリズムがセカンドライン風に。タイトルは“鬼は外”そのままだが、歌詞は“鬼も内”と変えられている。
リトル・フィート風だった「冬越え」は、ラグ・タイム調のギターの弾き語りで。狭山の厳しい冬の生活を歌った曲が、今の細野の心境を物語る歌へと変化している。
「終りの季節」は、ギターがメロディーを奏でる演奏曲になっていて意外だった。「CHOO CHOO ガタゴト・アメリカ編」では、歌詞の一部を改めている。
「僕は一寸・夏編」は、アレサ・フランクリンへの追悼の思いもあって、サザン・ソウル風のバラードに。歌詞も“日の出ずる国”から“日が沈む国”になど、大幅に変更し、時代の変遷、自身の足跡を振り返りながら“坂を登れば きっと景色が変わる”と明日への希望を託している。本作でのハイライト曲だ。
知的で洗練を極めたアレンジや歌詞の妙。穏やかで味わい深く大きな余韻を残す歌の説得力。旧作に取り組みながらも、今の心情を明らかにし、未来に向かう意思を示した“新作”だ。新たな傑作の誕生に、興奮と感動を覚える。(音楽評論家・小倉エージ)