Aさんは疲れ切り、この頃から自身でも息子に対して怒鳴ってしまうことが増えてしまったそうです。次第に十分に眠れず、食事も摂れなくなってきたことを家族に心配され受診に至りました。診察では、抑うつ状態は明らかで、体重も減ってしまっており、すぐに治療が必要な状態でした。
思いどおりにならず終わりの見えない育児では、いくら愛する我が子であってもイライラが募ったり、ときには投げ出したくなってしまうこともあるかもしれません。それは人として当然の反応のように思います。しかし、大切なことは、我が子にそういう感情を抱いてしまった自分を責め続けることではなく、そういう状況にあっても我が子を愛し続けられるご自身でいることではないでしょうか。
また、この状況で苦しんでいるのはご家族だけではありません。当たり前ではありますが、ADHDを持つ子ども自身も、思う通りに行動できず悩んでしまうことがあります。子どもにとって大好きなお母さん・お父さんに褒めてもらうことは、何を持ってしても代え難い喜びになります。そんな子どもが心からご両親を困らせようと思っているでしょうか。
子どもの場合、精神的なストレスに対する反応はさまざまな形であらわれます。後々になってわかったのですが、このときAさんの息子は小学校でいじめを受けてしまっていたようです。発達障害を持つお子さんの中には、外見では全くわからないことも多く、それゆえにほかの子どもたちと違うというだけで敬遠され、いじめの対象になってしまうケースを経験します。もしかすると、Aさんのお子様がぶつけたイライラは「自分のことをわかってほしい」、「助けてほしい」というSOSだったのかもしれません。
Aさんが受診されたとき、すでに精神状態はお薬を使った治療が必要な状態でした。子どもを思う気持ちからご自身のことは後回しにされていたことと思います。今回いただいた相談を見て「もしかしてこの人も同じ心境なのかも」と感じました。どうしてよいかわからなくなったとき、そこにはいつも我々医療関係者がいます。