立松さんは「ハリネズミ」という言葉が登場する、「『難治がん』の記者が問う『がんよ、私のなにを変えられた?』」(2018年2月17日配信)が印象深いと話す。
<自分が本を警戒しはじめていることに気づいたのは、去年の夏だ>という書き出しで、がんになっても「理屈っぽさ」が変わらない自分を見つめる。
<私はいわば、言葉という「針」で全身を固めたハリネズミだ。それを緊張させることで自分、そして配偶者を守ろうとしている。その言葉を手に入れるために、本、そして人にすがろうとする。逆に、危うくしかねない言葉は遠ざけようと、本をより好みし、距離を置くようになった。
これは、こちらから言葉を発するときにも言えることだ。コラムで扱うテーマの興味深さや文章のわかりやすさを、いつの間にか後回しにしていることがある>
亡くなる日の朝の様子について、野上さんの配偶者はあいさつ文でこう説明し、関係者や読者らに感謝している。
<「ここまでよくきた」と筆談で伝えてくれました。故人はひとつの悔いもなく、野上祐という一人の人生を全うすることができたと思います>
思いが詰まった「書かずに死ねるか」には、ウーマンラッシュアワー・村本大輔さんとの対談も収録。AERAdot.でも2人の対談を公開している。村本さんは本の帯でこんな言葉を贈った。
<野上さんは亡くなる直前まで病室で書き続けた。いまも天国で難しい顔をして書いている。僕は彼に憧れる>
寄せられたお金や本の収益の一部は、「福島に寄付して欲しい」という遺志に沿って、復興支援などに使われる。(本誌・多田敏男)
※週刊朝日オンライン限定記事