現在の医療では、自動診断システムがすでに使われています。例えば、心電図は機械が自動で診断し、その結果を医師が確認する方法が取られています。同じように、皮膚疾患の診断もディープラーニングによる自動診断システムが登場するかもしれません。

 では、全く皮膚科医が必要なくなるかというと、そういうわけでもなさそうです。

 ディープラーニングの中で行われている「画像の何を認識し、どこで区別しているか」はブラックボックスです。そのため、学習する元データに不備があると思わぬ間違いを引き起こします。

 ディープラーニングは、写真の中にある世界すべての情報をとりこんで診断します。例えば顔に多い皮膚病の診断では、皮膚病変そのものを区別して診断するのではなく、写真にある鼻を認識して皮膚病を診断する可能性があります。また、皮膚の部位だけでなく写真の背景にも影響を受けます。皮膚病とは関係ない情報を読み取って、ディープラーニングが誤診する危険性があります。

 そのため、いくらディープラーニングの診断精度が高いとはいえ、専門家によるクオリティーチェックは必要になります。

 また、がんの告知の場面ではどうでしょうか。ディープラーニングががんと診断し治療法を提示する場面で、私たち人間はすんなり受け入れることができるのでしょうか?

 この先の医師に求められることは、正しい診断や効果の高い治療法の選択より、患者さんへの伝え方や寄り添う力など、機械ではなく人間にしかできない心の部分になるのかもしれません。

 インターネットの普及によって、医師でなくとも医学情報に容易にアクセスできる時代になりました。そのかわり、間違った情報に惑わされる患者さんも出てきました。ディープラーニングという新しい技術の登場は、医療現場を大きく変える可能性があります。ディープラーニングの長所と短所を理解して、医療に賢く利用していくことが必要でしょう。

◯大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん薬物治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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