話がどこからどう伝わったのか、当時の後援会長だった福田赳夫元首相に呼び出され、「引退だけは取り下げてくれ」と1時間ぐらい説得されました。私は思っていたことを正直に話しました。「もう嫌なんです」と。そしたら「君は純だなあ」と言われました。
また、別のときには仕事で大阪のホテルに泊まっていたのですが、元首相の竹下登さんから「これから会えないか。妻もいっしょだ」と電話がかかってきました。「いま大阪ですよ」と言ったら、「前にいる」と。東京から駆けつけて、同じホテルの向かいの部屋をとっていたのです。ドアののぞき穴を見たら、知っている顔の秘書が廊下に立っていて部屋に呼ばれ、説得されました。
じつはそのころ、長い付き合いの新聞記者に記事にしてもらおうと、「引退するから」とネタを提供していた。ところが、その記者は「杉さんが引退するなら、芸能記者をやっていても仕方ない。俺も引退する」と言って、記事を出さなかった。もし、この方が喜んでさっさとスクープしていたら、違う展開になっていたかもしれませんね。
住友銀行(現三井住友銀行)の磯田一郎会長(当時)には「芸能界に入って何年になる」と聞かれ、「20年です」と答えたら、「あと20年苦しんで出てくる結論じゃないかな。そう簡単にはやめられない」と言われました。結局、芸能界は水が合わないな、と思いつつも続けています。
――杉のもう一つの顔は、慈善事業家。私財を投じてベトナムの孤児の里親になり、中国残留孤児を支援し、被災地に駆けつける。その活動は「売名」と誤解されることもあった。
被災地で、炊き出しのカレーの鍋をかきまぜていたときでした。リポーターがマイクを突き出し「それって売名ですか」と。だから「ハイ、売名です。あなたも売名したら? みんな助かるよ」と返しました。被災者がお皿を持って待っている状況です。リポーターも少し人生の勉強をしないといけないですね。