いやぁ。何とも気持ちがいい。思わず身を正してしまいます。

 私が朝日で一番、感動したのは中国・内モンゴル自治区ホロンバイルの大草原での日の出です。遊牧民が住む移動式住居「パオ」に泊まり、まだ暗いうちから外に出ました。それまでに見た日の出は真っ赤な太陽がゆらゆらとのぼってくるものでしたが、全く違っていました。ここでは太陽が地平線に顔を出すやいなや、ピカッという一瞬の閃光とともに、地平線まで続く草原全体が黄金色に輝くのです。

 このときは延命十句観音経ではなくて『易経(えききょう)』の一行がひらめきました。

「天行(てんこう)は健(けん)なり。君子は以(もっ)て自彊(じきょう)して息(や)まず」

 大自然の摂理というものを身にしみて感じ取ったのです。

 少し話が変わりますが、以前、詩人の伊藤比呂美さんと対談したときに、当時カリフォルニアに住んでいた伊藤さんは日想観にはまっているとおっしゃっていました。日想観は朝日ではなくて、夕日を拝むというものです。太陽が海に沈む直後に空の色が変わるそうです。光が反射して雲がすごい色に変わっていく。それをずっと見つめながら、伊藤さんは人の死について思いを深めたそうです。素晴らしいことですね。

 太陽には、セロトニンの分泌を助ける作用以上の力があるように思います。時には日の出や日没に対面して、思いにふけってみましょう。

週刊朝日  2019年2月22日号

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