映画は通常、ロケ地を押さえたら、そのシーンをまとめて撮影してしまうのです。しかし「女囚さそり」は、1シーン目から最終シーンまで順番に撮るという「順撮り」がされました。これだと、俳優のスケジュール、スタッフやロケ地の調整が複雑になり、時間もかかります。
通常の映画は2週間で1本仕上げるのですが、4カ月以上かかりました。単純に計算しても予算は8倍以上になります。だから、みんな腹を括って「いい作品を撮ろう」と心を一つにしていました。今だから言えますが、自分で「セリフなし」と言っておきながら、無言で演技をするのがとても大変で……撮影の最中に、何度も後悔しました(笑)。
仕事で結果を出しても、成果が過去になるのはあっと言う間です。その一方で、俳優には定年はありませんが、結果を出さないと明日の仕事はありません。「とにかくしがみつく」という執念で、演じ切りました。
撮影中は、不安を感じることはありませんでした。失敗したとしてもそれは前に進むための糧になる。これはあらゆる人にあてはまるのではないでしょうか。
――「女囚さそり」は大ヒットし、梶はその後、「修羅雪姫」(73年)など多くの映画作品で主演した。特に「曽根崎心中」は、梶にとって印象深い作品の一つ。数々の賞を受賞し、モントリオール世界映画祭の招待作品となった。
私はノーギャラで出演しました。増村保造監督に毎日セリフのダメ出しをされ、「お前の演技が下手だから、酒がまずくなる」と言われてました。増村監督は、自分の思った通りのシーンを俳優、スタッフ、カメラマンの全てに要求します。
特に大変だったのが、ラストの心中シーン。12月の極寒の所沢の山中で、2本の松に相手役の宇崎(竜童)さんと私は、それぞれの体を縛り付けて、お互いを刺し合います。
私は松に縛り付けられたまま、食事もとらずに2日間徹夜しました。冷たい地面からはい上がる冷気で体の芯まで冷えましたが、何を食べる気にもなれなかったのです。「この松から離れたら、緊張の糸が切れてしまう。病気になっても死んでも、ここから離れない」と演技を続け、やっと監督のOKが出たのです。