中国から飛んでくる有害物質は微小粒子状物質(PM2.5)だけではなかったようだ。
まずは水銀。滋賀県立大学などの研究チームによって、富士山頂や屋久島など山岳部の大気中から高濃度の水銀が検出された。最大で市街地の平均の10倍以上もの濃度だった。中国大陸から気団が入ってくるときに濃度が上昇していることなどから、研究チームは中国で排出された水銀が飛来すると考えている。水銀は中国やインドなど新興国での使用が増えており、国連環境計画によると、大気への排出量は世界全体で年間約1960トン(2010年)と推定され、このうち約3割を中国が占めるという。
そもそも水銀は水俣病の原因物質として知られているが、金の採掘などでも広く使われている。常温では液体だが、気化しやすい特徴がある。
「大気中の水銀が酸化すると雨に取り込まれ地上に落ちてくる。水域に入ると植物プランクトンなどに取り込まれる。そして食物連鎖を通じて高濃度に濃縮されたものが最終的に人間の口に入ってしまいます」(滋賀県立大の永淵修教授)
こうした過程で水銀がメチル水銀に変化し、胎児や乳幼児に脳神経細胞の発育障害などの健康被害をもたらすことが世界的に問題視されている。いったん大気中に排出されると世界中に拡散してしまうため、水銀の排出を国際的に管理する「水俣条約」の採択に向け、現在、政府間で交渉しているところだ。
さらに、先の永淵教授によれば、液晶パネルなどに使われるレアメタルのインジウムやアンチモンなども日本に流れてきているという。インジウムはじん肺の原因となる。液晶パネル工場などで働く人の肺の一部が繊維状になることがある。
東北大学などの調査によって、青森県、岩手県、秋田県にまたがる十和田八幡平国立公園の湖の泥に含まれるインジウムやアンチモンなどの金属が急増していることが昨年12月、明らかになったばかりだ。研究チームは、こうした中国由来の金属汚染が東北全体に及んでいる可能性もあるとする。