作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は「『週刊SPA!』のヤレる女子大学生ランキング」について。
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その昔、「行動する女たちの会」というのがあった。1975年のラーメンのCM「私作る人、僕食べる人」への抗議や、89年のウイスキーCMでレイプ被害を想起させる映像に抗議した女性団体、と言えば思い出す人もいるだろうか。75年に主婦や会社員など様々な立場の女性が集まり、性差別の抗議運動を活発に行った。96年に解散するまで、日本のフェミニズムを牽引した女性たちだった。
ウイスキーの広告が問題になった時、私は大学生だった。電車のポスターを見上げ「ああ、これが」と見つめた時の自分の気持ちを覚えている。
テレビCMでは馬に乗った男たちが挑発的に女を囲み、次の画面で女は地面に倒れ、けだるくこちらを見つめていた。ポスターは女性一人が倒れている写真だ。私は戸惑った。テレビCMの流れで考えればそれは「レイプ後の女性」なのだろうけど、一方でポスターとしてはオシャレに見えたのだ。当時流行の“セピア”カラーで、当時流行の“ウェスタン”で、私は女性のファッションを格好いいと思った。気持ち悪いのに、かっこよく見える。感情のちぐはぐさに戸惑いながら、何も考えずにレイプをオシャレに表現できる大人たちを怖いと思った。
「行動する女たちの会」は私の背中を押した。おかしい時はおかしいと、抗議の声をあげてもいいのだ。そうだ、何かできることを私もしよう。
一番最初に電話をしたのは、営団地下鉄(当時)だった。確か男性週刊誌の広告の見出しや写真が差別ではないかと抗議した。どの部署につながったのか覚えていないが、人生初の社会への抗議は大失敗に終わった。緊張しながら「差別だと思います」と電話に出た男性に言うと、男性は、私にこう返した。
「個人的な感覚ですね」
あまりの衝撃に私は黙ってしまったのだった。差別とは客観的に証明しなければいけないものなのか!? その義務は私にあるのか? 途方もない気持ちになったのだ。