西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、若手選手の指導で心がけていることを語る。
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新人合同自主トレが本格化している。この時期は、監督やコーチが期待の新人をチェックして、さまざまなコメントを口にする。その言葉にファンの方々も期待で胸を膨らませていることだろう。
ルーキーの欠点を指摘したって仕方がない。調整途上の選手に対し、“ああではない、こうではない”と指摘していたら、本当に改善すべき点は見えてこない。まずは、実戦で100に近い状態にしてもらって、その中から出た課題に取り組んでいくことしかない。
特に専門のOBの目には、すぐにその選手の気になる点が映る。ただ、調整の過程でそれは解消されるかもしれない。もし、実戦に入って、3月にさしかかっても直らないようなら、本人と考え方を意見交換する……といったことが必要になるだろう。私もキャンプで初めてルーキーを見る時には、いくつか気になる点があっても、それを本人に伝えることはしない。監督や投手コーチと意見交換をするくらいである。コーチ陣がどういうアプローチで新人選手と接するか。それが一番大切なのだから。
よく中日・松坂大輔のルーキー時代のことを聞かれるが、確か新人合同自主トレを視察して、報道陣に聞かれても「腕の振りがいい」としか言わなかった気がする。私が見ていたのは球の勢いではない。腕の振りの強さは誰が見たってわかる。体幹の強さ、もう一つは踏み出す左足首と左ひざの硬さだった。だが、そんなことは本人に言うわけがなかった。
キャンプ中に出した注文も一つだけ。「スライダーはいつでも投げられる。とにかくカーブを投げろ」と。ひじや肩を柔らかく使うためだった。初めて指摘したのは、3試合目の実戦登板となった1999年3月11日の巨人戦(西京極)。4回9安打8失点と打ち込まれ、甲子園の室内練習場で、キャンプ中に気になった「インステップ」の矯正をした。「先発ローテーションの一角」ではなく「西武、球界のエース」という構想が考えの根幹にあっただけに、その観点から絶対に直すべき点だけを伝えた。