杉山さんが、この大会で錦織の精神的な成長を感じたのが、決勝の第2セット。相手のダニル・メドベージェフ(ロシア)は強力なビッグサーブをくり出し、安定感があって簡単なミスをしないタイプで、錦織は昨年10月の楽天オープン決勝で敗れている。
準決勝まで3試合で1セットも落とさず勝ち進んできた錦織は、決勝でも第1セットを6-4で先取。しかし、ストローク戦で打ち負けてしまい、第2セットは3-6で奪われた。
「第2セットは8回ブレークポイントがありながらも、取れなかった。相手は(サーブの)1本でポイントにしてしまうので、すごく嫌な取られ方だったと思うんです」(同)
だが、錦織はそれ引きずらなかった。第3セットは1-1から4ゲームを連取して6-2で制し、勝利を引き寄せた。
「うまく気持ちを切り替えて第3セットに入り、最後まで自分のテニスを信じてやりきれた。精神的な部分で充実しているな、というのが見えましたね」(同)
この3年間で9回決勝コートに立った錦織だったが、あと1勝が遠かった。ようやく最後の1勝をつかみ、優勝トロフィーを手にした。
「負けていることはメディアでも書かれている。そこを意識しながらも乗り越えられたのは、精神的な成長です。プレッシャーがかかる中でも、今大会の錦織選手は自分の力を出し切れたと思います」(同)
これからの1年に、杉山さんは期待を寄せる。
「まだまだ肉体的に充実しているなかで、精神的にもいい状態になったと思います。錦織選手自身も“勝負の年”と思っているのではないでしょうか」(同)
大坂なおみに続き、グランドスラムで日本人男子初の王者として名を刻めるか。今季、最高のスタートをきった錦織に注目だ。(本誌・緒方麦)
※週刊朝日オンライン限定記事