西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、中継ぎや抑えとは異なる巨人・菅野智之投手が挙げる「1勝」の価値について論じる。
* * *
プロ野球選手の契約更改交渉も12月下旬に大詰めを迎える。巨人の菅野智之が2億円増の年俸6億5千万円(推定)でサインしたという。巨人では最高額だった2002年松井秀喜の年俸6億1千万円を超え、日本人選手では04、05年の横浜(現DeNA)・佐々木主浩に並ぶ史上最高額となった。私が1986年のシーズン後、翌87年の年俸で、投手では初めて1億円となったが、30年で6倍以上か。
菅野は「将来的に10億円もらう選手がいてもおかしくない。東京五輪に向けて野球界を盛り上げていかないといけない。そういうところまで目指して頑張りたい」と話した。大いに結構なことだ。昔はオーナー企業が広告宣伝費と称して赤字補填(ほてん)しているのが球団経営の実態だったが、今や球団が独立採算で黒字経営できている。そして、選手もグラウンド外での活動に積極的に取り組み、ファンとの交流が進む。「もらいすぎだ」とか批判をする方もいると思うが、経営を圧迫しない限り、オンリーワンの仕事をしたプロの選手が大金を手にする。実力の世界だから、夢はどこまでも大きいほうがいい。
近年は先発、中継ぎ、抑えといった投手の分業化が進み、先発投手にはクオリティースタート(QS=6回以上自責点3以下)という評価基準もある。しかし、本当に圧倒的な投手は、試合の勝敗すべてを託してもらえなければならない。いつも打順が3巡目に入ると、フレッシュな救援投手にバトンを託す……といった形では、先発投手としての成長はない。
試合展開に応じて自在に力を入れられるギアチェンジ能力、そして相手打者の力を見抜いて紙一重で上を行く投球術。9回を投げきろうと思う者にしか、この感覚は身につかない。最初から100球、6回までといった考えでは、30歳代中盤になって球威が落ちれば1軍レベルに残ることはできない。チームの先発の軸と言われる投手は、菅野のような考えを常に持ってもらいたい。