文部科学省で事務次官を務めた前川喜平氏が、読者からの質問に答える連載「“針路”相談室」。今回は自身の家庭環境から、結婚や子育てを冷めた目で見てしまう男性からの相談です。
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Q:僕が小さいころから両親は争いが絶えず、「死ね」などと互いをののしってきました。物心ついてからは、僕が間に入って両親をなだめることでその場をしのいできました。両親は子どもを育てるレベルに達していない未熟な人間で、僕が最大の被害者だと感じます。子どもはかわいいから産んだほうがいいと多くの人は言いますが、本当に子どもを幸せにできる自信がなければ産むべきではないと僕は思います。
僕は良い人に出会い、最近結婚しました。しかし、結婚や子育てについて懐疑的で冷めた目で見てしまう自分もいます。(東京都・31歳・男性・自営業)
A:それはつらかったでしょう。心情、お察しします。でも、あなたはすでに両親を超えていると思う。「あのようにはならない」と両親を反面教師にする心構えを、あなたは持っていると思う。
あなたの両親は、相手を「自分のものだ」と思っているんでしょうね。夫婦はもともと他人同士なんだから、思いどおりにならないのは当たり前。夫婦は平等で、互いを尊重することが必要。「してくれて当たり前」と思ってはいけない。所有や支配の関係に陥ってはいけないのです。
僕が大きな影響を受けた本の中に、エーリッヒ・フロムという社会心理学者が書いた『愛するということ(The Art of Loving)』という本があります。そこに、愛するということは、「感情」ではなく、意志を持って行う「行為」だとある。これは本当にそうだと思う。感情というのは、いつかは消えるもので、どれだけの熱愛であっても、その恋愛感情はずっとは続かない。その感情が消えた時に、どうやって相手との豊かな関係を保つか。それは愛するという行為によるのです。愛することによって相手からも愛される、そういう豊かな関係がつくれるのです。