前々回のビートルズ、前回のジミヘンに続き、またまた50周年記念盤を採り上げたい。実際、1968年はロック史に残る名盤が数多く生まれた年だった。ザ・ローリング・ストーンズの『ベガーズ・バンケット』、ザ・ドアーズの『太陽を待ちながら』、ザ・キンクスの『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』などの記念盤が続々と発売されている。
今回紹介したいのはジャニス・ジョプリンを一躍有名にしたビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーの名盤『チープ・スリル』の50周年記念エディションだ。本作の原題は『SEX,DOPE & CHEAP THRILLS』。マリフアナ撲滅キャンペーンの映画『リーファー・マッドネス~麻薬中毒者の狂気』(1936年制作)からの引用だったが、50年前の発売時には“セックス”や“ドープ(麻薬)”という語句に反発したレコード会社がタイトルへの採用を拒否。このたび、半世紀ぶりに復活した。
2枚組だが、オリジナル盤のリミックスやリマスター盤ではない。『チープ・スリル』制作時のセッションから17曲、30テイクが収録されている。
ジャニスは長年のロック愛好者のみならず、幅広い音楽ファンの間でその名を知られ、不世出のロック・シンガーとして語られてきた伝説的な存在だ。名声を得ながらドラッグとアルコールにおぼれていた彼女は、ドラッグの過剰摂取のため27歳で亡くなった。
1943年、米テキサスの生まれ。厳格な家庭に育ったが、不良仲間を通じてベッシー・スミス、マ・レイニー、レッドベリーといったブルース/フォーク・アーティストを知り、自分でも歌い始めた。だが、級友からは変人扱いされ、孤独感、無力感を味わったという。
大学進学後にフォーク・トリオなどを結成。交友のあったチェット・ヘルムズとサンフランシスコへ出たが、万引きで逮捕されたり、ドラッグや酒を乱用したり。いったん故郷に戻り、学業を再開。同時に弾き語りなどで活動するうちビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーへの参加を誘われ、一員となった。