
井戸水は水質が悪く塩分も多く含まれているため飲料には適していない。村の人たちは濁った水路の水を汲み飲料水としていた。ポリタンクに水を汲みに行くのはもっぱら女性や子どもたちの仕事だ。
NGO国境なき子どもたちパキスタン事務局のジャベッド・イクバルさんは「とにかく衛生的な水が必要です。そして住む場所も。私たちは370世帯にテントや衛生用品を配布し、ろ過給水システムを設置しましたが、被害の大きさが尋常ではなく、国連や政府を始めとする支援が全く足りていません」と、更なる支援を訴えた。
被害が大きい南部のシンド州とバロチスタン州は元々、米、小麦、マスタード、サトウキビなどの生産が盛んだが、田畑の水が引くにはまだ時間がかかる。仮に農業が再開できても収穫までにはさらに数カ月を要するため、村人の収入、さらにはパキスタン全土における食料不足も懸念される。
大変な状況下で明るい話も聞いた。ナイクムハマド村の子どもたちのほとんどは学校に通ったことがないという。しかし、アッダーディノさん(28)は2人の息子を近くの私立学校に通わせている。公立学校は村から遠いし、先生が急に休んだりして質もよくないのだという。
農業が壊滅的な状態で日雇いの仕事しかない。月1400ルピー(約820円)の学費を工面するのは大変だが「息子たちには明るい将来を夢見てほしい」と語ってくれた。(フォトグラファー・清水匡)
※AERA 2023年2月20日号