3300万人が被災した2022年6~8月のパキスタンの大洪水。同年12月に現地をたずね、被災の現状を撮影、住民の声を聞いた。AERA 2023年2月20日号の記事を紹介する。
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「大雨で壁の一部が崩れてきたので『これはまずい』と思って、急いで外に出ました。その瞬間、屋根が落ちたんです」と、フォジアさん(30)が倒壊した家の中を案内しながら教えてくれた。
パキスタンでは昨年6月以降の記録的なモンスーンの影響で大洪水が発生。国土の3分の1が浸水し、3300万人もの人々が被災した。最も被害の大きいシンド州では150万戸以上の家屋が被害に遭い、うち32%が全壊した。
■再開のめど立たず
インダス川とその支流を水源とするシンド平原には古くから無数の灌漑用水路が整備されていたが、記録的な大雨により各地で用水路が氾濫し大洪水に見舞われた。
私がアリムラッド村を訪れるとフォジアさんが手招きし「うちの様子を見てください!」と訴えかけてきた。ブロックでできた家は外壁だけが残されているものの、もちろん住むことはできない。水道設備も流失した。自治政府から2、3日おきに給水車がやってくるが、「これだけで足りるわけはない。水が引いて村に戻ることはできたけど、飲み水、食料、生活用品などすべてがないんです!」。
農業で生計を立てていたフォジアさん一家。村周辺の田畑が水没、湖のようになってしまい、農業を再開するめどが立たない状態が続く。フォジアさんは不安と不満を私に爆発させた。
ムハディスマイルマグシ村のグランナビさん(78)は泥でできた家が降り続く大雨と洪水で崩れ避難したときのことを話してくれた。
■腕の中で孫が
「水路が決壊し洪水が押し寄せてきた。このまま村に居続けることはできないと思い、2キロほど離れている幹線道路まで避難しました。雨をしのぐ場所もなかったからヤシの葉などで屋根を作り、身を寄せ合うように過ごしました。この地方は猛暑で有名ですが、濡れた体には夜は厳しかったです。1歳と1歳半の孫が高熱を出したんですが、道路が寸断されていて病院に連れて行くこともできず、母親の腕の中で死んでしまった。村の子どもたちはきれいな飲み水がないからおなかを壊して下痢をしているよ」