もし、あのとき、別の選択をしていたなら──。著名人に人生の岐路に立ち返ってもらう「もう一つの自分史」。今回は俳優の角野卓造さんです。ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」で妻(泉ピン子)と母(赤木春恵)の間で板挟みになる夫・小島勇役のイメージが強いですが、若き日には青春ドラマを地で行くような恋愛劇も経験したといいます。
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「渡る世間~」は今年でスタートから29年目。本当にありがたいです。おかげで「ラーメン屋のおじさんだ」って認知してもらえるようになった。さらに(ハリセンボンの)近藤春菜ちゃんが「角野卓造じゃねえよ!」と連呼してくれたおかげで、僕の名前が「かくの」じゃなくて「かどの」と読むんだと、全国に知っていただけた。彼女は恩人ですよ。
「渡鬼」の小島勇役のような「人の好いおじさん」のオファーがくるということは、そういう持ち味が自分にあるということでしょうね。芝居をするというのは、自身も知らない自分を「掘っていく」作業なんです。自分が何者であるかが、最初から確立されているわけじゃない。
あの役は車のギアに例えればニュートラルの位置。そこからローにもリバースにも、どちらにもいける。今度はリバースにギアを入れて、意外性を狙って犯人役をやっても、おもしろいだろうなと思うんですよ。
■公演中に電話「子どもができた」
――俳優としての経歴を振り返る前に、私生活の話を少し。役者一筋の人生の中にも、ドラマのような別れと、現パートナーとの出会いがあった。もし、そんな経験をしていなかったら、現在の角野卓造という役者は確立されていなかったかもしれない。
年間180回も舞台に立っていた20代のころです。大学時代から付き合っていた彼女から公演中に電話がかかってきて、「子どもができた。でも、あなたの子じゃないの」って。
まさに青天のへきれきでした。7年も付き合っていましたからね。諦めきれずに彼女に会いに行きました。最終的には子どもの父親と乱闘になり、赤坂警察へ行くことになってしまい……もちろん僕は被害者ですけどね。