セリフを一言言うたびに、一歩動くたびに、北村さんから「違う!」と怒鳴られる。稽古がいやになり、「この舞台が終わったら、こんな劇団やめてやる!」とすら思った。でも北村さんに言われるがままにやって初日を迎えたら、お客さんの反応がとてもいいんです。
自分の頭で思っていたことと、それを表現することは違うんだと、わかった瞬間でした。そして自分だけが勝手な演技をしていれば芝居はダメになる。北村さんに言われました。「お前がちゃんとやってくんなきゃ、オレができないんだよ!」って。まさしくそうなんです。芝居って「関係」でできるもの。自己満足でてんぐになっていた鼻を、北村さんにたたき折られたんです。
別役実さんには「表現しようとするな。そこに『存在』しなさい」と言われました。大きい劇場では、「何か」を多少やらないと伝わらないけど、小規模な空間では「何か」をやろうとすると、表現しようとする生理が見えてしまう。だから演技を「消していく」ことが必要なんです。
テレビなど映像の仕事もそう。むしろ、もそもそっとしゃべったほうがリアリティーがあったりする。そういうことをひとつひとつ学んでいきました。
■3回記憶が飛んだ舞台にひと区切り
――テレビのオファーも次々と来るようになり、映像も舞台も60歳になるまでは、ダブルブッキングにさえならなければ、どんな役でもやる、という姿勢でやってきた。まさに役者一筋の人生だが、実は、舞台については、昨年ひと区切りをつけていた。
きっかけは発作です。舞台の上で、一瞬、記憶が飛んだんです。それも3回。台本も頭に入っているんだけど「スーッ」と意識が遠のいて、その瞬間、自分がいまどこを演じているのか、何をしているのか、わからなくなる。
幸いまわりがうまくカバーしてくれたり、袖に引っ込んで5分くらいすると記憶が戻ってきたりで、舞台が中断することはなかった。でも現場を混乱させてしまいました。