会社を私物化したトップの責任を追及するのは当然だが、今回の事件の背景は単純ではない。日産は経営危機を乗り切るためルノーから資金を得たが、43.4%の株式を握られてしまう。日産は自動車会社の中でも異例に高い配当金を出し、ルノーに“上納”してきた。その額は今年度分を含め1兆円近くに達する。

 自動車の販売台数を見てもわかるように、ルノーが企業規模でより大きい日産を支配する関係が続いてきた。さらに仏政府はルノーを通じて日産への影響力拡大を狙っていたとされ、ルノーと日産の「合併」も取りざたされていた。

「このままでは完全に乗っ取られると危機感を強めたのが、日産の一部の経営陣です。ゴーン前会長は当初は合併に反対だったが、仏政府の圧力もあって賛成に変わったとみられていました」(前出の記者)

 つまり今回の事件は、一部の経営陣の“クーデター”の側面があるのだ。実際、西川社長は会見でこう認めた。

「本件は内部の通報があり、社内調査の結果、ゴーン氏らの複数の不正が確認された。事案の内容を会社から検察当局に説明し、捜査に協力してきた」

 いつから社内調査を始めたのかは定かではないが、動き出したのは今春ごろとみられる。西川社長を含め数人の幹部だけで情報を共有し、検察側に提供した。特捜部はひそかに内偵を進め、10月には応援も呼んで捜査を本格化させた。捜査に協力する見返りに刑事処分を軽くする「司法取引」も用いて、証言も引き出した。

 西川社長ら幹部はXデーに備えて、会長の行動予定などを教えるとともに、“追放”の実現に備えた。逮捕は大半の社員にとって寝耳に水だったが、西川社長らにとっては、数カ月にわたる隠密作業が報われた瞬間だった。

 西川社長は周りからイエスマンと見られており、17年4月に社長を引き継いだのもゴーン前会長の信頼が厚いからだった。その変心ぶりに、仏メディアでは古代ローマでカエサルを裏切った「ブルータス」になぞらえる記事も出た。

 西川社長以外の役員らも、前会長を最後まで守ろうとする人はいなかった。05~13年に最高執行責任者(COO)としてゴーン体制を支えた志賀俊之・元副会長も、解任に賛成している。(本誌・浅井秀樹、亀井洋志、多田敏男)

週刊朝日  2018年12月7日号より抜粋

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