■温泉はハレで銭湯はケ

小山:僕が最も伝えたいと思ったことは、日常の中の幸せに気づく、ということ。どうしても今、人はハレが幸せで、ケは大変だったりつらかったり。温泉はハレで、銭湯はケなんですよね。でもケの中にも、視点を変えたり考えをちょっと変えてそこに触れたりすると、すごく素敵な幸せがある。僕は温泉も本当に大好きですが、温泉はそこに行くことが幸せだと思いながら行くじゃないですか。銭湯に行くときは、誰もそんなふうには思わない。

生田:そうですね。

小山:でも、僕は銭湯に行くことは日常において最高の幸せなんですよ。そこで周りの人を見たり、親子の会話に耳を傾けてほっこりしたり、番台のお母さんとのやりとりを楽しんだり。で、外に出ると、夜空に例えば月が浮かんでいて体はポカポカ、いろんな人の言葉や会話から自分の内側も温まっていて、「人生っていいな」みたいな気持ちになる。そういう幸せもあることに、一人でも多くの方に気づいてもらえたらなって。

生田:一緒にお風呂に入ると、不思議なんですけど、心がつながった感じがするんですよね。裸の付き合いと言いますけど、身も心もさらけ出すと相手の心の奥を知り得たような気持ちになるというか、普段触れることのできない何かに触れたような気持ちになるというか。温泉ももちろんいいですけど、僕は銭湯の方がより密な感じがします。

■自分をリセットする場

小山:そう。この映画でお風呂に対する視点が少しだけ変わって、お風呂ってただ気持ちいいだけではないな、と思ってもらえたら嬉しいですね。

生田:お風呂は自分をリセットする場所でもありますよね。仕事で疲れて帰ってきたとか、友だちとけんかしたとか、学校で嫌なことがあったとか、そういうことがあっても湯船に入ってふぅーっと一息つくと、何か凝り固まったものが抜けていくというか、そこに置いていくという感じはあるのかなと思います。

小山:そうそう。湯船でため息をつくと、なんか「ま、いっか」という気分になるんですよね。嫌なことがあっても、気持ちいいからこれでいいや、と。こんないい思いができるのだったらいい人生じゃない、という気になります。実は、僕の究極の夢は風呂屋をやることなんです。すごくちっちゃな銭湯でそこのオヤジになる。自分が入れた風呂に人様がお金を払って入りにきてくれて、「良かった~」と言って帰ってくれる。自分の風呂でそんなことができたら最高に幸せだと思うんですよ。

(構成/フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2023年2月20日号

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