江川:弁護士に対する大量の懲戒請求事件を見たとき、あっと思いました。何人かの弁護士さんに何百何千と懲戒請求が来るんです。
林:それは何でですか。
江川:行政が朝鮮学校に補助金を出すのをやめたことに対して、いくつかの弁護士会が「再開するように」という声明を出したらしくて、そういう弁護士会の役員や弁護士に対して懲戒請求が来てるんです。あるブログに「これは日本を破壊しようとする弁護士たちの企みだ」みたいな陰謀論が展開されていて、懲戒請求を呼びかけているわけです。この動きを見てると、非常にカルト的だなと思うんですね。しかも、そこに引き寄せられていく人たちは中高年、特に高齢者が多いんですよ。
林:まあ、そうなんですか。
江川:真面目に働いて社会に貢献してきた人が退職したけれどまだまだ元気で、趣味の活動なんかしてるときにそのブログを見て「マスコミも知らない真実がここにある。自分が知らないところで日本が破壊されようとしている。何とかしなきゃいけない」と目覚めてしまう。社会の役に立てる場があると使命感を抱いて参加していくんでしょうね。そして、家族がいくら止めても聞き入れない。これはカルトに入れ込んでいく状態と非常に似てると思うんです。
林:オウムもそうでしたよね。
江川:はい。オウムも「人類救済」という言葉で使命感を掻き立てていました。オウムは若い人たちをターゲットにしましたけど、これからは高齢者をターゲットにしたカルト的なものが出てくるんじゃないかと思いますね。
林:お話を聞いてるうちに、うちの夫のことを思い出してゾクゾクッとしちゃいました。団塊の世代だから理屈も立つし、学生運動もちょっとやってる分、はやる気持ちもあるし。
江川:きっと自分も社会の役に立ちたいと思うんでしょうね。
林:「ボランティアでもやったら?」って言うんですけど、「おばさんたちに指示されるのはイヤだ」って。
江川:プライドもあるんでしょうし。そういう人たちをうまく取り込んでいったのが今回の懲戒請求事件ではないか、と。この種のものが、これからもっと出てくるかもしれません。
(構成/本誌・松岡かすみ)
※週刊朝日 2018年10月19日号より抜粋