西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。死ぬまでボケない「健脳」養生法を説く。今回のテーマは「咀嚼(そしゃく)の刺激」。
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【ポイント】
(1)よく噛んで食べると様々な効用がある
(2)よく噛むことは認知症の予防にもつながる
(3)食を楽しんで、よく噛むことが大事
よく噛んで食べるということには、様々な効用があります。
(1)食べすぎない。胃腸の感覚が脳にある満腹中枢に伝わるには時間がかかります。この時差のおかげで「もう満腹」と満腹中枢が感じたときには、すでに食べすぎているのです。よく噛んでゆっくり食べると、時差で余分に食べてしまう量が減ります。
(2)唾液が増える。よく噛むことで唾液が増え、口腔内の抗菌作用が高まり、歯周病などの予防になります。
(3)筋肉が鍛えられる。咀嚼のための筋肉は左右に咬筋、側頭筋など4種類があり、きわめて強力です。よく噛めば、これらの筋肉による筋力トレーニングの効果が期待できます。
(4)血糖値の上昇がゆるやかに。よく噛んでゆっくり時間をかけて食べると、血糖値の上昇スピードが下がります。これは、糖尿病の患者さんやその予備軍の人たちにとって、望ましいことです。
さて、それでは認知症に対する効用はどうでしょうか。私が子どもの頃は、しっかり噛むと頭が良くなるといわれました。これは、あながち根拠のないことではないのです。
咀嚼では咀嚼筋を中心として、口輪筋など多数の筋肉が関与しています。それらの筋肉が組織化された秩序ある運動をすることで、噛むことができます。
この咀嚼運動はいちいち頭で考えるのではなく、反射的に行われています。食べものを噛むときに、その噛み方を意識していたら、ものが食べられなくなってしまうでしょう。
反射運動の中枢は延髄と中脳にあり、さらに上位の中枢として大脳皮質があります。つまり、咀嚼により反射運動を繰り返すと、そのたびに、大脳皮質が刺激されるのです。