善玉菌は人体で作ることができない有益な物質を生み出したり、過剰な免疫反応を抑えたりしています。例えば善玉菌の代表である乳酸菌は、むし歯菌や歯周病菌を洗い流してくれる唾液の中から見つかっています。
細菌をやっつける治療といえば、抗生剤が知られていますが、抗生剤は有害な細菌を殺す半面、こうしたからだに有用な菌も抑えてしまいます。
■増殖さえしなければ歯周病にはならない
一方、歯周病菌は悪玉菌の一種です。しかし、単体では悪さをしません。細菌が集まって固まりになり、増殖を始めてから歯周組織を壊すような力を発揮するのです。つまり、口の中に歯周病菌がいても、増殖さえしなければ歯周病にはならないのであり、歯周病菌を100%なくす、のではなく「増やさないこと」ととらえていただくのがよいのです。
そのためにも日々の歯みがきをし、定期的にメインテナンスをすることは大事です。
次にからだの免疫力を高めること。実は歯周病菌は免疫の影響を強く受けることがわかっており、病気などで免疫力が低下すると増殖することがわかっています。有名な例は糖尿病で、この病気があると歯周病を発症しやすく、悪化しやすいのです。
さらに大きな影響をおよぼしているのが生活習慣で、ストレスや栄養不良、喫煙によっても歯周病は悪化します。なかでもたばこは吸えば吸うほど歯周病の進行を早めます。ぜひ、思い当たる人は生活習慣の改善に努めてください。
なお、近年は「バクテリアセラピー」といって、乳酸菌の一種であるロイテリ菌という菌を摂取することで口の中の善玉菌を優位にし、歯周病を予防しようという治療がスウェーデンを中心に広まっています。
具体的には、まだ無菌に近い赤ちゃんの口の中にスポイトなどでロイテリ菌を含ませます。これにより、口の中の細菌のバランスを整えるわけです。ロイテリ菌を摂取することで赤ちゃんの口の中の歯周病菌が90%減少したという報告もあります。
日本でもロイテリ菌入りのタブレットやヨーグルトが販売されているので、歯周病が心配な人は使用してみるのも一考です。
◯若林健史(わかばやし・けんじ)/歯科医師。若林歯科医院院長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演