「気道が狭くなると、空気が通るときに振動します。この振動がいびき。無呼吸の人は気道がふさがってしまうので、いったんいびきも止まるのですが、苦しくなって呼吸が再開すると『ガー』と大きないびきをかきます」(同)
SASの診断基準は、無呼吸・低呼吸数が1時間に5回以上、または一晩に30回以上。重症だと1時間に30回以上も無呼吸になる人もいる。まさに窒息状態だ。
「苦しいから呼吸を再開しなさい、と脳が指令を出すことで、のどが開きます。そのたびに交感神経が働き、深い眠りに入る前に脳が起こされてしまうので、睡眠が分断されます」(同)
睡眠の質が悪くなり、日中の仕事のパフォーマンスも低下する。運転中でも強い眠気で意識を失うことがあるので、健常者より交通事故の発生率が7倍に高まるとされる。他人を巻き込む事故の原因にもなり得るのだ。
これまで「SAS=肥満中年おやじ」に多いと思われていたが、実は痩せている人にも多い。
「欧米人は太りすぎて気道がふさがることが多い。アジア人の場合はあごが小さくて奥行きが狭い骨格のため、気道がもともと狭くなっているのです」(同)
親やきょうだいがいびきをかく人は、骨格が似ているので自分もリスクがある。顔がしゅっとしてあごが小さい若者にも起こりうる。若いうちは口の周りの筋肉が張っているので、呼吸が止まることは少ないが、油断は禁物だ。
女性こそ注意しなければいけないのはすでに説明したが、特に閉経後は警戒しよう。女性ホルモンの刺激によって睡眠中の呼吸は促されているが、閉経すると女性ホルモンが減少し、肥満にもなりやすくなって無呼吸に陥りやすい。
恐ろしいSASだが、治療法はある。代表的なのが「経鼻的持続陽圧呼吸療法」(CPAP<シーパップ>)。治療用マスクを装着して寝ることで、鼻から空気を送り込み、気道がふさがらないようにするものだ。
CPAPは健康保険が適用される場合は、月1回、定期的に病院に通う。空気を送る装置のレンタル料金も含め、費用は月に4500円程度の自己負担となる。
CPAPは国内で30万人以上が受けているとされ、一般的になりつつある。装置も小型、高性能化し、呼吸の状況を自動的に記録できるようになっている。
ただ、慣れずに数カ月でやめてしまうケースも少なくない。前出の大場院長は、鼻を治療することで、CPAPが効果的になる人もいるという。
「鼻呼吸ができず、口呼吸が習慣になっている人は、鼻中隔(びちゅうかく)という骨が曲がっている可能性があります。耳鼻咽喉科で診てもらいましょう」