三浦大知のニュー・アルバム『球体』に驚いた。ヒット曲を収録したアルバムとは違い、テーマ性のあるコンセプト・アルバムとなっている。作詞、作曲、編曲、プロデュースを手がけたNao’ymtこと矢的直明とのコラボ作だ。
全17曲がそれぞれ独立した曲であると同時に連鎖している。アルバムの冒頭と締めくくりには同じ波音と舟の汽笛が聴かれる。“球体”さながらに円環状の構成だ。ファンも意表を突かれたのに違いない。
三浦は2012年に「Two Hearts」で初のオリコンのトップ10入り。昨年1月の「EXCITE」が初のオリコンの1位となり、同年の日本レコード大賞の優秀作品賞を受賞。紅白歌合戦に初出場し、イントロが無音のシンクロダンスによる「Cry & Fight」や「EXCITE」を披露して話題となり、お茶の間にも知られる存在になった。
音楽制作にあたったNao’ymtは1998年にR&Bコーラス・グループのJineを結成し、04年にプロデュース活動を本格始動。翌年、安室奈美恵の『Queen of Hip―Pop』の6曲の制作で注目を集め、以来、三浦大知ら多くのアーティストのプロデュースや作曲を手がけてきた。
三浦が語るには、Nao’ymtの世界観に共感し、アルバムでのコラボを切望していたという。制作のすべてを委ね、三浦は歌に専念。さらに『球体』をもとに三浦自身が演出、構成、振り付けを手がけ、歌とダンスの独演による映像作品もつくり、アルバムに収録した。同名の公演も実施してきた。
『球体』というタイトルやアルバムのテーマは明らかにされていないが、アルバムから浮かび上がってくるのは主人公の内的世界や“君”との思い出をたどる時空を超えた“旅”であり、その背景にあるのは都会、川、海、森林、砂漠。すなわち“球体”とは地球であることを示唆しているようだ。
幕開けの「序詞」は、穏やかなピアノ演奏からヘヴィーなリズムへと変化していく。“行きたい場所が見つからない 帰りたい場所はあるのに”と、海辺に立ち尽くす主人公が“顔上げたその先”に“朝日を背にした君”を見つける。その曲が終わり、無音の後で聞かれる“ただいま”という言葉が暗示するのは、“君”との思い出をたどる過去への旅だ。
「円環」では、シンセやドラム・マシーンによるダンサブルな演奏をバックに歌う。見覚えのある情景の中で、どこか違和感のある“ギヤマン”(ガラス細工)を見つけるが、それは続く「硝子壜」の“鉛色に染まる部屋”で“色を集めて光反射”する“硝子壜”というくだりとリンクしている。もはやいなくなった“君”との思い出の品だ。
メロディックな「淡水魚」では、三浦の繊細なファルセットが印象深い。本作でのハイライトの一つだ。“私たちの個性が ここに馴染めないだけ”と、現代社会の抑圧から逃れ、新たな居場所を求める自分たちを“大海を目指す淡水魚”のようだと歌う。