ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。欧州が虚偽情報対策を急ピッチで進める背景を解説する。
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欧州では現在、インターネット上のフェイクニュースやデマといった虚偽情報への対策の動きが加速している。欧州委員会は今年1月、虚偽情報対策を提言する高度専門家グループ(HLEG)を組織。HLEGはわずか2カ月で最終報告書をまとめ、4月には欧州委員会が虚偽情報対策の指針を公表している。
欧州がこれほど急ピッチで対策を進める背景には、来年5月に控えている欧州議会選挙がある。欧州各国は、虚偽情報により有権者の意思決定がゆがめられ、ひいては民主主義もゆがめられてしまうことに、極めて強い危機感を持っている。特に懸念されているのが、ソーシャルメディアを利用したロシア政府の世論誘導や分断工作だ。
クリミアのロシア編入の是非が問われた住民投票や、英国のEU離脱をめぐる国民投票、スペイン・カタルーニャ州の独立問題でも、ロシアがソーシャルメディアを利用してフェイクニュースやデマを拡散し世論の分断工作を図ったとして、EU各国が非難している。
EUは現在、多くの国で移民問題や経済・財政問題を抱え、ポピュリズム政党が躍進するなど、政治情勢も不安定化している。こうしたことが、ソーシャルメディアを利用した情報工作や選挙干渉が有効に機能する下地にもなっている。
広告収入のために過激な記事を捏造(ねつぞう)するフェイクニュースサイトや、反移民、反EU的思想を持った個人や政党によるデマも拡散している。虚偽情報への対策は、急務とされているのだ。
7月17日、主要ソーシャルメディア、オンラインプラットフォーム、広告主、広告業界が構成するワーキンググループが、欧州における虚偽情報対策のための「実践規範」の草案を公表した。欧州委員会が4月に公表した対策の指針をもとに、虚偽情報の拡散に関わるステークホルダーが、それぞれ実施すべき具体的な対策をまとめたものだ。この規範は法的拘束力は持たず、業界の自主規制として実施されることになる。