ところが、テキストの『外傷救護の最前線』が発行されてから、同書を紹介する出版社のホームページに「目次」や「序文」とともに、いつのまにか「追加記載」と称する“訂正”が掲載されていた。そこには、編集者代表として斎藤氏の署名でこう記されていた。
<本書に記載不足がございましたので、下記を追加記載いたしますとともに、第2刷にて追加修正をいたします>として、照井氏の前掲書の書名と該当ページを挙げている。
今回、テキストを作成した防衛医大に、事の経緯を問い合わせると次のように回答した。
「図の件につきましては齋藤教官本人に確認しましたところ、照井様の本を参考に作成したものでありまして、(出典を明らかにしなかったのは)確認ミスで生じたものです」(総務課)
あっさりとミスを認めたが、これで一件落着とはならなかった。
時間的な流れはそっくりそのまま引用しながら、図の説明文を微妙に書き換えているため、結果的に間違いだらけの内容になっているというのだ。照井氏の怒りは収まらない。
「私には何の連絡もありません。コンプライアンスは一体どうなっているのか。説明文を改変したため、素人が書いたのも同然の間違いが起きてしまっている。齋藤先生は防衛医大で重鎮の立場である方なのですから、きちんと対処してほしいと思います」
照井氏によれば、例えばライフル銃で脚を撃たれた場合、負傷した側の足を下にして横向きになって救護を待つのが鉄則だという。
「そうすれば自分の体重で血管が圧迫され、出血が抑えられるからです。ところが、テキストのイラストでは、負傷した左脚が上になっています。また、止血帯(ターニケット)を掛けると強烈に痛みます。麻酔しないと20分程度で負傷者は痛みに耐えられなくなり、自分で止血帯を緩めて死亡してしまいます。しかし、テキストでは省いてしまって、麻酔の必要性に触れていません」(照井氏)
一方、照井氏が指摘した「まちがい」について、齋藤教授は「必ずしも患肢を下にする必要はないと思います」と答えた。さらにこうも主張する。
「(テキストの)『外傷救護の最前線‐事態対処医療の手引き‐』はシビリアンのための書籍であり、第一線救護とは切り離したものです。すなわち、事態対処医療は本邦の法規を遵守しなければなりませんので、軍事(ミリタリーの)医療ではないです」
照井氏がこう反論する。
「テキストで、私の意図が正しく反映されなかったのは事実です。誤解により、最も迷惑するのは現場の隊員たちです」
応急処置法をいま一度、検証する必要があるだろう。負傷者が出てからでは遅いのだ。(本誌・亀井洋志)
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