■5年生存率1.4%。データから自分の人生の終わりを感じる
がん患者といえども、社会的に活躍している人も多い。なかには、最も生存が厳しいといわれているすい臓がんを患っていた人もおり、それに見習うことにした。自分がすい臓がんの患者となり今後どうしようかと考えた時に、同じようなすい臓がんに罹患した人は一体どんな生活を送り人生をまっとうしようとしているのかということが気になった。
一般に難治がん中の難治がんに罹患した以上、統計的には長期の生存率は極めて低い。ステージIVのすい臓がんでは、5年間の生存率はわずか1.4%にすぎない。このようなデータを見せられると、自分の人生はこれで終わりと感じる人がいても不思議でない。
そんななかで同病者が元気にすい臓がんと向き合っているのを見ると、自分も元気づけられるものである。とりわけ社会的に活躍し大きな貢献をされている人のことを知ると、自分も負けていられないとファイトが湧いてくる。がんが発覚して1年ぐらい経ったころ、建築家の安藤忠雄さんのことを知った。
「私は私の人生を、倒れてもまた進む」……安藤忠雄さんの講演が新聞に採録されているのを読む機会があった。そのなかでもすい臓がんの罹患のことをたんたんと語られている。
2009年に胆嚢(たんのう)、胆管、十二指腸にがんが見つかり、三つの臓器を全摘。さらに5年後にがんが見つかり、すい臓と脾臓(ひぞう)も全摘している。術後は医者の言うことを聞いて生活を一変させ、毎日規則正しい生活を送って、現在健康に過ごしているとのこと。この記事を読んで、こんなに重篤なすい臓がんを患いながら社会的に大活躍をしているのを拝見すると同病者として大いに元気をもらえた。
◯石弘光(いし・ひろみつ)
1937年東京に生まれ。一橋大学経済学部卒業。同大学院を経てその後、一橋大学及び放送大学の学長を務める。元政府税制会会長。現在、一橋大学名誉教授。専門は財政学、経済学博士。専門書以外として、『癌を追って』(中公新書ラクレ)、『末期がんでも元気に生きる』(ブックマン社)など