■抗凝固薬を服用しながら受けられる手術も
薬で効果がみられない場合には、手術療法が考慮される。おもな手術法は三つあり、いずれも尿道から内視鏡を入れておこなう。
▼経尿道的前立腺切除術(TURP)
電気メスで肥大した前立腺を削り取る。手術の第一選択で、術式が確立されており、約7割近くにおこなわれている。出血が多いので、前立腺が大きすぎるとできない。合併症としては勃起障害、逆行性射精(射精時に精液が膀胱のほうに逆流する)、尿道狭窄などがある。入院期間は約7~10日。
▼ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)
レーザーで肥大した前立腺をくりぬいて取り出す。前立腺が大きくてもおこなえる。出血はTURPよりは少ないが、逆行性射精、尿道狭窄、失禁などの合併症が起こりうる。入院期間約5~8日。
▼光選択的レーザー前立腺蒸散術(PVP)
高出力のグリーンライトレーザーを照射して、肥大した前立腺を高熱で蒸散(組織自体を消失)。血管も蒸散していくので、出血がきわめて少なく、術後の尿道カテーテル(管)も1日で抜ける。入院期間約3日。合併症としては、逆行性射精がある。
PVPの登場で、これまで手術ができなかった人にも、治療の道が開けたと長久保病院院長の桑原勝孝医師は言う。
「前立腺は血管の多い臓器で、手術では出血の多さが問題でした。しかしPVPでは出血はきわめて少量ですむことから、抗凝固薬を飲んでいる人や心臓などに持病のある人でも、安心して手術を受けられるようになりました」
また、尿道カテーテルを挿入しておく期間も1日と短く、認知症などがあって術後の安静が困難な人にも適応できるという。1回の手術で蒸散できる量が限られているため、大きいものでは通常の大きさを超えた量が残ってしまう。再発が気になるところだが、桑原医師の調査では、現在使われている機器より低出力のものを使用した場合でも、5年後に再治療が必要になったのは、約10~12%だという。
「現在の機器は蒸散能力が増大しており、再発率はさらに減ると考えられます。また、100ミリリットル以上のものには、PVPとTURPを組み合わせた手術や、薬で小さくしてからPVPをおこなう方法なども試みています」(桑原医師)
PVPが受けられるのは、全国でまだ85施設のみだが、TURPやHoLEPができないといわれた患者にとっては、朗報といえるだろう。
◯監修
獨協医科大学病院 排泄機能センター長・主任教授
山西友典医師
長久保病院 理事長・院長
桑原勝孝医師
(文/別所文)
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