前立腺肥大症の診断には「国際前立腺症状スコア(IPSS)」を用いる。七つの自覚症状の強さを答えるもので、戸村さんは35点中19点で中等症だった。超音波検査での前立腺の大きさは約36ミリリットル、排尿機能をみる「最大尿流率」は1秒間に9.6ミリリットルで、やはり中等症の診断だった。
■副作用があれば別の薬を選択
前立腺肥大症の治療は、まず薬物療法を1~2カ月おこなう。第一選択となるのはα1遮断薬だ。前立腺の平滑筋に作用して、緊張を緩める作用がある。飲んで1週間程度で効き目があらわれるが、めまいなどの副作用が起こることもある。
戸村さんを診た山西医師は、2014年1月に承認されたPDE5阻害薬(タダラフィル)という薬を処方することにした。この薬も平滑筋を緩める作用があるが、α1遮断薬とは作用の仕方が異なるため、副作用でα1遮断薬が使えない人にも処方できる。
また、前立腺肥大症の悪化の要因に、患部周辺の血流の悪さがあげられる。血流が悪いと前立腺に炎症が起こる。炎症により前立腺肥大症をさらに悪化させてしまう。タダラフィルには血流改善効果もあるため、炎症を抑え、前立腺の肥大を改善する。
服薬して2週間後、戸村さんの症状は改善し、夜間の排尿は0~1回になった。8週間後には初診時に129ミリリットルだった膀胱容量(尿をためる量)が300ミリリットルに、最大尿流率も13.0ミリリットルまで改善された。IPSSスコアは8点まで下がり、症状はほとんどなくなった。12週間で、希望により薬を一時中断して治療を終えた。
前立腺肥大症の治療薬はそのほかに、前立腺細胞にとりこまれた男性ホルモンの作用を阻害して増殖を抑える「5α還元酵素阻害薬(デュタステリド)」がある。また、過活動膀胱の症状が強い場合には、膀胱の過剰な収縮を抑える抗コリン薬も使う。
「単剤で効果がなければ、副作用の有無をみながら、患者さんに合わせて2剤、3剤と併用することは可能です。早期に治療を始めれば、内科的治療で十分効果が期待できます」(山西医師)