「厚生年金保険の保険料は労使折半で、これは会社負担分を含めた数字です。オーナー社長は『会社=自分』ですから、全部自分が支払っている感覚をお持ちです。それで怒りが倍増するのです」

 奥野氏は滋賀県で社労士事務所を開設している。中小企業の社長の相談相手をしているうちに、年金の相談が多く、社長が怒るパターンがどれも同じであることに気づいた。

「事前に準備すればそれなりの対策が打てるのに、知らないがゆえに手遅れになるケースばかりでした」(奥野氏)

「社長の年金」のコンサルティングの仕事が徐々に増え、5年前、ネット相談を始めたところ問い合わせが一気に増えた。啓蒙の必要性も痛感し、昨年協会を立ち上げた。

「社長」に限ったことではないが、老齢厚生年金が支給停止になる「在職老齢年金」の仕組みはこうだ。

 老齢厚生年金の月額と月給(標準報酬月額ベース。その月以前1年間に賞与をもらっていれば、標準賞与額の総額を12で割った金額を月給に加える)の合計が、60歳代前半なら「28万円」、65歳以上は「46万円」を超えたら、超えた分の半額が支給停止となる。

 例えば、月額の老齢厚生年金が10万円になる社長がいたとしよう。すると、60歳代前半では月給が「38万円」(賞与なし)を超えたとき((10+38-28)÷2=10万円、10-10=0円)、60歳代後半なら「56万円」(同)を超えたら((10+56-46)÷2=10万円、10-10=0円)、全額支給停止になる。

 ただし、65歳から支給が始まる老齢基礎年金はこの制度の対象ではなく、全額支給される。

「でも、老齢基礎年金は満額でも月額6万5千円ほど。満額の人はほとんどおらず、月額4万~5万円が多い。だからまた、ここで『高い保険料を払ってきたのに……』となります」(奥野氏)

 おまけに、この制度は強化されるばかりで、今では「社長」は一生、逃れられないようになっている。

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